最近では、和服というと七五三や成人式、結婚式くらいしか着る機会はないかもしれませんが、和服には日本文化の知恵が秘められております。そして、日本文化は仏教や儒教の影響を数多く受けておりますので、マインドフルネスに関わる知恵も縫い込まれていると言っても良いでしょう。

 

インドから中国、中国から日本へと仏教や瞑想などが伝わり、日本の風土に馴染む中で和文化と共に日本独自のマインドフルネスも育ってきました。

 

そして武道、茶道、華道、書道などの教養ということだけではなく、衣服や建物、街づくり、食など生活の隅々まで日本独自のマインドフルネスは浸透しております。けれど、明治維新後に多くの西洋文化が流入したことで和の文化や知恵も忘れられていることが多々あります。

 

そこで現代の日本人が自分たち文化を見直す中で、最近注目されつつあるマインドフルネスを掘り下げてみたいと思います。今回は「和服」の中に込められた先人の知恵をマインドフルネスの視点からアプローチしてお伝えいたします。ちなみにヨガも今から1200年前に密教(仏教)伝来とともに「瑜伽」として伝えられており、日本独特の行法としてに日本文化の深い部分に染み込んでいるのです。

 

 

装うことは整えること

現代人の私たちは「普段着」と「余所(よそ)行き」との差がなくなりつつあります。「余所行き」という言葉自体も死語になりつつあるかもしれませんね。「余所行き」とは外出することを意味する言葉ですが、普段とは違う改まることを「余所行き」と表現します。

 

つまり普段と違うおしゃれをすることを「余所行き」の服と申します。そして、和服は「余所行き」のための服なのです

 
和服を着用してみると分かることは「動きにくい」ということです。洋服に慣れている人はたまに和服を着ると着崩れを起こしやすいようですね。特に女性などは帯をきつく締められて窮屈(きゅうくつ)に思う方も多いでしょう。

 

成人式で朝に美容室で着付けをしてもらい、夕方になれば着崩れて帰ってくるという人も少なくはないでしょう。そして、着物を脱ぐと解放感に満たされます。

 

では、なぜそんな窮屈なものが和服なのでしょうか?昔の人はこの様な窮屈なものを毎日着ていたのでしょうか?

 

確かに昔の人が普段着ていた和服はどちらかと言うと浴衣に近い感じで、キツキツに締め上げた着物というわけではなかった様ですが、それでもジーンズやスエットに比べればやっぱり窮屈です。もちろん昔は、男性が農作業や力仕事をする時はフンドシ姿でという感じで、女性も動きやすい格好をしていた様ですが、それ以外はやはり和服の着物姿です。

 

これにはわけがあります。和文化の基本は人前に出る時は日常を含めて「身嗜みを整える」という考え方がありました。これは身内、家族、夫婦、親子でもお互いに身嗜みを整えて向かい合うという姿勢がありました。これらは仏教以外にも儒教の影響もあり「礼」を重んじたのです。

 

つまり、和服とは人前に出るための身嗜みなのです。では、身嗜みとはどういう事でしょうか?とは「身体・言葉・仕草・心」、嗜み(たしなみ)とは「つつしみ」のことで、普段からの自我を表に出さない様に心がけることを意味します。

 

身嗜み(みだしなみ)とは身体、言葉、仕草、心遣いにおいて、自我を抑えて相手を思いやるように注意を払い、心身を整える事にあります。服装はただ着るものではなく、自分の心や行動を整えるものであるという考え方が根底にあります。つまり、普段が「余所行き」なのです。

 

動きやすい格好ではなく、むしろ行動を抑え、小さな動作にも心を配る姿勢が和服(着物)に対する和文化の考え方があります。着るは装うことであり、それは心身を整えて礼を尽くす事にあります。柔道や古武道がレスリングやボクシングなど西洋の格闘技と違うところは、心身を整えて相手に敬意を払うということが根底にあり、裸ではなく「道着」を整えて着用し、礼を大切にする由縁がここにあります。

 

皆さんは、それでは堅苦しくて「ストレス」がたまり、むしろマインドフルネス とは逆なことと思われる方もいるかもしれません。けれど、ストレスや自分を苦しめているものは「自我」であって本当の自分ではないのです。

 

自我とは、相手を思いやることのない「我がまま」な自分であり、その「我がまま」は自分自身が作り上げた「幻の人格」なのですが、このことは「マインドフルネス」とは何か?を学び体験して行くことで、自ずと自分自身で気づくことでありましょう。

 

ここでは和服の身嗜みを通じて、マンドフルネスとは何かをみなさんと共に考えて行きながら話を進めて行きたいと思います。

 

 

和装は「礼」であり、「礼」は最高の「護神術」

読者の方は「護神術」と見出しを見て、護身術の間違いではないか?と思われる方もいるでしょう。この「護神術」という言葉は私の合気道の師であった引土道雄師範から教わった言葉なのです。

 

引土道雄師範は合気道を創始した植芝盛平開祖から、合気道は「護神術」であると教わったそうです。「本当の武道は自分の身を護るものではなく、神様を護るものなのだ」と教えられて開祖より10段(免許皆伝)を授かりました。

 

人間が神様を護るなど不遜(思いあがった考え)に思うかもしれません。けれど、日本人は全ての存在に神が宿るという考え方があり、同じく仏教も全てに仏性が宿ると伝えております。

 

このことを日本のヨガのパイニアであった沖正弘氏が「生命即神」と言い表しております。神は万物に宿る生命の本質であるという意味です。ですから、誰でも自分の生命に対して真摯に向かい合い、自己に対するあらゆる生命(日本文化では、物も大きな意味で生命と捉えている)を敬うべきだということなのです。

 

したがって「護神術」とは、全ての生命の本質を大切にすることである、と私は師からの教えによって理解をいたしております。

 

この「護神術」は「礼」によって表されます。日本人の礼の基本は「土足で相手の心に踏み込まない。」ことです。土足とは汚れた足のままで家に上がらないこと。つまり、「自分の我がままを相手に押し付けない」ことが礼の基本なのです。

 

自分自身が尊いと思うように、相手にも尊い神が宿っているのだから、まず相手の尊厳を拝することが礼法なのです。

 

現在、世界中でコロナが流行り三密を避けると言われておりますが、その様なことは和文化の礼においては今更ながらだと私は感じます。

 

たとえば、古来の日本文化(特に武家)では

 

など、いつの時代か?と言われそうですが、このような慣習がございました。どれも私が合気道道場に住み込んでいた時に師から教えて頂いたものです。師は代々の武家でしたので、私に武家の作法を教えてくださいました。身を清潔にして相手を敬う心を行動や所作に身につけることが本当の武道であり、日本文化なのだと学んだのです。

 

現在、緊急事態宣言で様々な制限を課せられておりますが、元々の日本人の文化を思出せば、結果ウイルスから身を護るだけではなく、様々な危険や争いを避けることができ、自分だけではなく相手も損なうことなく平和をもたらすでしょう。

 

和服(着物)の着崩れのないように常に姿勢をただし、襟を整えることに気を配ることが「装い」なのです。その「装い」が平時(戦争のない普段の生活)における平和を招くという意味では和装は甲冑でもあるのです。

 

 

姿勢を整えて健康をまとう

和服の特徴として、身体を捻らない動きに対応しております。たとえば、上のイラストでは帯と着物の袷(あわせ)で腰から上が固定されておりますことが分かると思います。ちょうどコルセットのような感じですね。

 

裾も乱れないように歩きますので歩幅が狭くなります。

 

着物を着ることで体軸が固定されてインナーマッスルが鍛えられますので、体幹がしっかりします。また、帯と着物の袷で肋骨を締めますので、自然と腹式呼吸になります。女性の場合は帯を腹部上部から締めて下腹部はゆとりを持たせておりますので、骨盤周りにゆとりがあり骨盤が前傾するために背中は猫背になりません。

 

着物を着ると骨盤から脊髄、内臓の位置がしっかり固定されて副交感神経が優位に働くために心も落ち着きます。まさしくマインドフルネスにぴったりですね。

 

よく、瞑想や座禅でリラックスするために、緩めの服装をおすすめされる方もおり、着物はかえって姿勢が安定せずに精神的にも身体的にも不安定になる場合がありますが、茶道でも華道でも着物を着て行うと心も落ち着くように着物は身体を整えて心を落ち着かせてくれる装いでもあるのです。

 

 

リサイクル、リユースな和服は地球に優しい

着物は反物(巻いた布)から作ります。反物の幅(38センチ)を活かして身体のサイズに縫い合わせます。そのために、着物の縫い目を解くとそれぞれの部分が一枚の四角い布に戻ります。その布を再び縫い合わせて身体の大きさの違う人の着物に仕立て直すこともできます。

上の図は1枚の反物から着物に裁断する図ですが、洋服のように身体の形に合わせてカットするのではないことがわかります。

 

着物は糸を解いて、仕立て直し本人の成長に合わせるだけではなく、親から子へ、孫へと大切に受け継がれてゆくものでした。

 

近年の使い捨ててゆく発想は大量生産、大量消費による経済優先の考え方が基盤にあります。昔の物や和服はリサイクル、リユースが基本であり「リソース」(資源)を大切にしております。まさしく地球環境とともに生きる発想が和服に込められているのです。

 

まとめ

和服には日本古来の生き方や考え方がたくさん詰まっております。今という時代にもう一度、古くから伝わる文化や知恵を学ぶことや体験することで多くの授かりものがあるでしょう。和服は心身を整えて「和の心を育む」日本のマインドフルネスなのです。

 
※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。