不安障害とマインドフルネス

自分は心配性な性格だと感じている人は多いでしょう。しかし、強い不安により眠れない、電車に乗ることができない、仕事に集中できないなど、日常生活に支障が出ている場合、単なる「不安性」ではなく、「不安障害」かもしれません。

 

近年、精神疾患の一つである不安障害に対して「マインドフルネス」が効果的であるという報告が増えています。今回は、心の病である不安障害に対するマインドフルネスの効果について紹介します。

 

不安障害とは

精神疾患の中で不安を主症状とする疾患群をまとめて「不安障害」と呼び、日本では9.2%の人が、生涯のうちに何らかの不安障害を有していると報告されています。

不安障害の中には、特徴的な不安症状を呈するものや、原因がトラウマ体験によるもの、体の病気によるものなど様々です。

不安障害の症状

不安障害の主症状は不安です。不安とは漠然とした恐れの感情で、誰でも経験するものですが、過度に現れたり、いつまでも続くものが病的な不安です。

不安のあらわれ方にはいろいろな形がありますが、ここでは代表的なパニック障害PTSDの症状を紹介します。

 

パニック障害

突然、動悸や息苦しさを感じ、死んでしまうのではないかと思う程の症状(パニック発作)が出てきてしまう障害です。バスや電車など逃げられない環境やすぐに助けを呼べない状況では、「発作が出るかもしれない」といった予期不安が生じます。

「パニック発作が起きたらどうしよう…」と思い、外出できなくなったり、家族に依存してしまったりと生活にも支障が出ます。

 

外傷後ストレス障害(PTSD)

PTSDという言葉はここ20年程で広く知られるようになりました。

過去のトラウマに関する記憶が繰り返しよみがえり(フラッシュバック)、悪夢として経験されます。記憶がよみがえる場合には、精神的な苦痛やさまざまな身体症状を伴うのが一般的です。また、トラウマに関する記憶を思い出させる人や場所、機会などを避けることにより、生活が制限されることもあります。

 

不安障害の原因

不安障害の原因には遺伝や性格などがあげられていますが、まだ原因ははっきりとは解明されていません。

有力な説の1つとして、脳の神経伝達物質であるセロトニンの不足があげられます。セロトニンは、大脳辺縁系にある扁桃体を中心とした「恐怖神経回路」の活動をコントロールしており、このセロトニンの不足により「恐怖神経回路」が過剰に働くことで恐怖が呼び起こされ、心拍数増加、呼吸促迫、交感神経症状などの発作が引き起こされると考えられています。

 

不安障害の治療法

不安障害の治療は、薬物療法精神療法に分けられます。

薬物療法では、一人一人症状に合わせて、抗うつ薬や抗不安薬が処方されます。

精神療法では、物事の評価や解釈の仕方(=認知)に注目する治療法である、認知行動療法が用いられます。その人の認知が生きづらくしている部分を見つけ出し、少しずつ修正していき、それよって気分や行動を変化させることを目的としています。

 

認知行動療法の技法の一つにマインドフルネス認知療法というものがあります。

マインドフルネスとは「今、この瞬間の体験に意識を向け、評価をせず、ありのままに受け入れる心理過程」であり、近年、マインドフルネスに基づいた認知行動療法が精神疾患に対する治療法として多く用いられるようになってきました。

 

不安障害とマインドフルネス

マインドフルネスには、「注意のコントロール」「体験への志向性」の2つの要素が含まれています。「注意のコントロール」とは、今この瞬間に生じる思考、感覚の変化の観察と処理を行うことです。不安障害の方はこの注意のコントロールがうまくできないことが知られており、注意のコントロールができるようになることで、不安障害の改善が期待されます。

「体験への志向性」とは、現在の瞬間に対して開放的で受容的な態度でいるさまです。一方、現在の瞬間に対して回避的な態度を体験の回避と言います。体験の回避とは、自分のネガティブな思考、感情、記憶、身体的感覚などの体験を避けようとすることで、不安障害の主要な症状として見られます。これに対して、マインドフルネスを行うことで体験への志向性が向上し、感情や身体感覚などを「ありのまま」に受け入れることができるようになり、体験の回避が改善する可能性が考えられます。

不安障害に対するマインドフルネスの効果

マインドフルネスアプローチの手法の一つに、1970年代にマサチューセッツ大学のジョン・カバットジン博士により開発された「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」があり、Asmaeeらは、不安障害と診断された31名の患者を、MBSRプログラムを8週間おこなう群(マインドフルネス群;16人)と何もおこなわない群(対照群;15人)に振り分け、不安や抑うつの経過を観察しました。

その結果、マインドフルネス群の不安・抑うつは対照群と比べて有意に軽減しました。特に、不安の程度を測定する尺度であるPSWQは、マインドフルネスを実践する前後で数値が半分以下になっていました。

このことから、マインドフルネスを実践することにより不安障害が改善する可能性が示唆されました。

(Asmaee Majid S, et al. Effect of Mindfulness Based Stress Management on Reduction of Generalized Anxiety Disorder. Iranian Journal of Public Health, 2012.)

 

その他の研究でも、不安障害に対して薬物療法や運動療法にマインドフルネスを組み合わせることにより、薬物療法や運動療法単体よりも大きな効果を発揮することが報告されています。

 

マインドフルネスの実践

それでは、どのようにしてマインドフルネスを始めれば良いのでしょうか。

マインドフルネスを高める基本的な手技である、マインドフルネス瞑想のやり方の一部を紹介します。

 

 1.床に座り、目を閉じたままリラックスをします。
 2.自然に呼吸をします。呼吸を長くしたり、無理に吐き切る必要はありません。
 3.心と身体を落ち着けて、呼吸に意識を集中します。
 4.呼吸から意識がそれて、様々な雑念にとらわれたときは、その雑念を無理に追いやったりせず、その物事をただ流れていくままに観察します。
 5.また呼吸に意識を戻していきます。
 6.再び雑念が浮かんできた時は、その雑念の内容を心の中で言葉で繰り返して気づくようにします。
 7.呼吸に意識を戻します。

 

この流れをはじめは3~5分ほど繰り返して下さい。慣れてきたら、10~20分ほど続けてみましょう。

また、夜眠る前に瞑想睡眠アプリ「Relook」を用いて瞑想をおこなうことで、マインドフルネスを高めると同時に「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンを増加させ、不安を軽減させることが可能になります。

Relookアプリについてはこちらを参照してみてください。

まとめ

不安障害に対するマインドフルネスの効果について、研究の結果をふまえながら紹介しました。いつも不安に感じていることがある、心配性だという方は、ぜひマインドフルネスを実践し、穏やかな心を手に入れてください。

 

※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。