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マインドフルネスにより得られる心の健康
瞑想に代表されるマインドフルネスは、うつ病や不安障害といった精神疾患を改善させる効果のある、科学的根拠に基づいた手法です。
この精神疾患が改善に向かう第一歩が、「ストレス軽減」によると言われてます。
瞑想やマインドフルネスが心の健康に良いというのは聞いたことがあっても、どこかスピリチュアルであやしいイメージを持っている方も多いのではないでしょうか?
今回はマインドフルネスの実践により、実際にどのような物質が作用してストレスを改善させているのか、紹介していきたいと思います。
ストレス社会を生きる日本人
ストレス社会、長時間労働、過労死といった言葉が飛び交うようになった昨今、職場で強いストレスを感じている人の割合は労働人口の58.0%にのぼります。
(引用:厚生労働省平成 30 年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h30-46-50_gaikyo.pdf)
また私たちがストレスを感じるのは職場だけではなく、既婚女性の69.3%が家事や育児に関するストレスを抱えていると報告されています。
(引用:21世紀職業財団 キャリア形成と仕事と家庭の両立に関する意識調査 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/03/dl/s0303-7b.pdf)
現代の日本で生きていく上で、これらのストレス因子をすべて取り除くことは不可能でしょう。それでは、どうやってこのストレスを軽減させ、良好なメンタルヘルスを保つことができるのでしょうか?
気づきを促すマインドフルネス
マインドフルネスとは、「今この瞬間の体験に気づき、ありのままにそれを受け入れる方法」のことです。マインドフルネスにおける「気づき」とは、「呼吸をしている」や「音を聞いている」といった人間の五感に直接働きかけるような動きに対して、意識を向けることを指します。自分が何を感じているのかについて、余分な思考を排除して、なるべくありのままに気づいていきます。
仕事や人間関係、育児といった心配事を一時的に頭から取り払うことで、ストレスが軽減するといった仕組みは想像に難くないでしょう。
マインドフルネスストレス低減法の開発
1970年代、マサチューセッツ大学のジョン・カバットジン博士は、マインドフルネスを医療に応用したプログラム、「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」を開発しました。
このプログラムは、8週間の間、週に1回、マインドフルネス瞑想を実践します。
具体的には、椅子に座り呼吸だけを観察し続ける「呼吸の観察」や、仰向けになって自分の身体のすみずみまで注意を向けて様々な感覚を感じ取る「ボディスキャン」などがあります。また、静止した状態だけではなく、ヨガのポーズを取りながら呼吸や体の感覚、音、思考や感情などをありのままに観察する「マインドフルネスヨガ」などもあり、プログラムを通して、マインドフルネス瞑想を学び、実践していきます。
その結果、MBSRの効果としてストレスの軽減だけでなく、不安の解消、自己効力感の向上が認められています。
(引用:Hoge E, et al.J Clin Phychiatry, 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23541163/)
科学の発展によるストレス軽減効果の実証
しかし一方で、マインドフルネスには科学的な根拠がなく、ストレス軽減に関してもあくまで主観であり、暗示的ないわゆる「プラセボ効果」ではないかといった声も多く聞かれていました。
これに対し、近年の科学の発展に伴いストレスの量を客観的に示すことができるようになり、改めてマインドフルネスの重要性が認識されるようになりました。
コルチゾールの低下
副腎皮質から分泌されるコルチゾールは、ストレスホルモンとして知られており、うつ病患者では高い値を示します。また、長期的なストレスにさらされることで、コルチゾールの分泌が過多となり、脳の海馬を萎縮させることが明らかになっています。ストレス増加は心の健康を害するだけでなく、認知症のリスクまでも高めてしまうのです。
Witek-Janusekらは、早期の乳がん患者を対象に8週間のマインドフルネスを実践したところ、マインドフルネスをおこなっていない患者と比較して、血中のコルチゾールの量が有意に少なかったと報告しています。またマインドフルネスの実践により生活の質(Quality of Life:QOL)も有意に向上しました。
乳がんと診断されたばかりで非常に落ち込んでいる時期に、マインドフルネスを実践することによりストレスが軽減しただけでなく、自分の未来に希望を失わず、いきいきとした生活を送ることができたのです。
(引用:Witek-Janusek, L. et al.Brain, Behavior, and Immunity, 2008. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2586059/pdf/nihms59851.pdf)
セロトニンの増加
セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれる脳内物質です。
セロトニンは、興奮している時に働く交感神経と、リラックスしている時や寝ている時に働く副交感神経の2種類の神経を調節する働きを持ち、心のバランスを整えます。セロトニンが減少するとストレスを感じやすくなり、ストレスへの耐性が弱くなります。またストレスがたまることでセロトニンの分泌が低下するという悪循環が生まれてしまいます。
いくつかの研究でマインドフルネスにより尿中のセロトニン量が増加することが報告されています。マインドフルネスは心の健康にとって、ストレス軽減という「マイナスをゼロにする」だけでなく、幸せホルモンの分泌を増やし「ゼロからプラスにする」働きも持っているのです。
(引用:Newberg AB. et al. Medical hypotheses. 2003. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10859661/)
(引用:Walton KG. et al. The journal of alternative and complementary medicine. 1995. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9395623/)
唾液アミラーゼの減少
最後に紹介する唾液アミラーゼは、ストレスにより増加することが知られており、唾液のみで簡便に測定することができるため、ストレスの客観的評価指標として注目されています。
心身症患者を対象としたマインドフルネスのセルフケア教室において、心理教育および集中力を高める瞑想を組み合わせたプログラムをおこなったところ、プログラム前と比較して唾液アミラーゼの量が約68%に減少しました。これはストレスなどにより身体症状が現れている患者に対しても、マインドフルネスが効果的であることを示しています。
また、マインドフルネスの効果として肩こりや腰痛、緊張の有意な軽減もみられました。「病は気から」という言葉もありますが、実際にストレス軽減により身体にも良い影響が及んでいるのです。
(引用:山本 他.第 56 回日本心身医学会総会ならびに学術講演会. 2015年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/56/12/56_1197/_pdf)
まとめ
ごく一部ではありますが、科学的根拠に基づいた、マインドフルネスによるストレス軽減効果について紹介しました。ストレスに囚われることのない、自分らしい生活が少し見えてきたのではないでしょうか。
最近ストレスが溜まっている・・・。ストレス発散の仕方がわからない・・・。という方は、マインドフルネスによるストレス軽減効果を実感してみてはいかがでしょうか。
※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。