※この記事は、2021年3月27日(月)にClubhouseで行われた対談を記事にしたものです。この記事はClubhouseで参加してくださった方々から事前に許可を得て作成しております。読みやすいよう、一部改変しております。あらかじめご了承ください。
こちらの記事は後編となります。前編をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
目次
川野先生が考える、マインドフルネスの展望
自分の心と感覚に、エネルギーを費やす時間を
情報量が指数関数的に増加している現代の世の中で、マインドフルネスというものは、今後どのような役割を果たしていくのでしょうか?
そして私たちは今後どう日常に取り入れていくのが良いと思いますか?
情報過多の状態が、我々の脳にいかに悪影響を与えるかはよく指摘されていますよね。例えば、スマホは多種多様な情報を一度に頭に入れるツールで、頭を酷使してしまいます。
しかし最近になり、発売当初はもてはやされていたスマホも、ようやく付き合い方を再考する時期に来ているのではないでしょうか?
情報過多に疲れた人は、少しの時間だけでもいいので、様々な媒体を通じて入ってくる情報を遮断してみてください。今ここで、自分の心が感じていることに意識を置いて過ごすだけで、注意資源(※)を温存してあげることができます。この注意資源が枯渇すると、うつや不安などの不調を招きやすいと考えられています。だからこそ、注意資源を外部からの情報ではなく、自分の心や感覚に向けてあげるんです。呼吸瞑想だったら呼吸だし、歩行瞑想だったら足といったように。瞑想には、注意資源を回復させる効果があると言われ、雑念だらけの脳を癒すことができます。
(※)注意資源…注意を向けたり集中したりするときに使われる有限のエネルギーのこと。
分断時代こそ、マインドフルネスで人とつながる感覚を
さらに私が大事だと思っているのは、「センス・オブ・コモン・ヒューマニティー」という考え方です。これは「誰もが共通の人間性を有している」という考え方です。現代は、コミュニティ間の分断が進み、人々の心が繋がる機会が減っているのです。そこで、マインドフルネスをすることで、この「人間は共通の人間性を持っている」というセンス・オブ・コモン・ヒューマニティーの感覚が自然と浮かんでくるんです。
他者を異質な存在として見るのではなく、他者の中に人間としての要素を見出すことで、オープンに向き合え、自己開示できるようになります。私は「世界平和のためにマインドフルネスの普及活動をしています」とよくお話しするのですが、これは冗談ではなく本気で信じていることです。
世の中では、国際問題が絶えません。だからこそ、私たちがそうした問題を二項対立のものとして捉えず、あなたも私も一緒という感覚を育むことが大切なんですね。
そうですね。二項対立を手放す考え方は、仏教、特に禅の世界で重んじられてきました。例えば、茶の湯では、「主客一体」という言葉を重んじています。主体と客体を区別せず、同じ立場にいると考えるのです。もちろん主客を分離して考えるのは大切ですが、一方で「他者と自分は別物である」と考えて自己愛を持つと、なかなか人に対してオープンになれず、他者と比較して自分を差し測ってしまうようになります。
近年、こうした自己愛に固執した人が増えているように感じます。日本を代表する精神分析医でいらした故・小此木啓吾先生は、こうした人のことを「自己愛人間」と表現しました。収入や社会的立場などで他者と比較し、躍起になって自分の価値を証明しようとします。これらには際限がなく、どこまで行っても心の安寧には繋がりません。だからこそ、先程の「主客同一」という考え方が大切になります。仕事でも他者と比較をして、負けていないか、ミスをして突っ込まれないか、と考えたりせず、チームが一つとなってマインドフルに主体性を持って仕事ができると良いですね。
なるほど。「人の目を気にしないで生きる」という考え方に近いものがありますね。
資本主義社会では、競争を促すことで経済が伸びてきましたが、こういった考え方に取り込まれすぎると、他者の物差しでしか自分の価値を測れなくなり、結果として安心感などが失われていくんですね。
センス・オブ・コモン・ヒューマニティーを体現する
もちろん、競争が100%悪いとは思っていません。しかし日本には、競争の結果で自分の価値を決めてしまう考え方が強くあります。故に、競争に躍起になって自己存在をかけて頑張ってしまうのです。
そうではなく自分のスキルを磨いたり、自己ベストを伸ばしたり、他者ではなく自分との戦いだと考えると、精神を涵養(かんよう)することができます。さらにマインドフルネスを伴わせ、他者と比べる自己愛的な考え方を柔軟にしていくと、競争を楽しんで互いを高め合えるものと考えられるようになります。
競争に良し悪しはなく、一方で他人と刺激を与え合える関係を持つためには、やはりコモン・ヒューマニティーの理解が必要ですよね。
そうですね。ですが、コモン・ヒューマニティーを理屈で学ぶことは難しいかもしれません。こうした考え方を聞いて「なるほど」と思い、触発されて考えることはとても素晴らしいと思います。ですが、翌日仕事に戻るとギスギスしてコモン・ヒューマニティーの考え方を忘れてしまいます。
だから理屈だけで学ぶのではなく、日々の生活で自分の気持ちを変えながら実践してみましょう。理論だけで理解しようとせず、マインドフルな時間を作り、毎日の行為を丁寧に、いつもより時間をかけてやってみる。そういった行いから入っていくことが大切です。
理屈を通してではなく、自らの経験を持ってして、コモン・ヒューマニティーを実現していくと。
はい。
まだ私自身もコモン・ヒューマニティーをの考え方を完全に身につけられたとは言えません。ですが実践者の一人として真のコモンヒューマニティーを目指して、楽しみながらやっていきたいです。
世界から見た日本の精神性
世界が目まぐるしく変化する中、日本という国は、どのように世界にポジティブな影響を与えていくと考えられていますか?
日本には、おもてなし文化など、他者に良かれと思って動く気持ちで溢れています。インドの伝説的な瞑想指導者であった、バグワン・シュリ・ラジニーシ師は、日本の仏教のあり方にとてもリスペクトを持っていました。「日本の仏教、特に日本の禅は、生活のレベルにまで浸透しているところが稀有である」と生前に述べていました。
日本では、鎌倉時代・室町時代の頃から、生活の中に禅や、武士道・書道といった「道」と付くものが浸透していました。その影響もあり、信仰としての仏教というより、そもそも生活の中に禅が溶け込んでいるんですね。生活の中にマインドフルな考え方が浸透している、マインドフルなカントリーとも言えます。例えば、周りに誰も人がいないのに「ごちそうさま」や「いただきます」と言うのが習慣になっているのは日本だけです。目には見えないことに対して感謝するという精神性を世界に広げられれば、感謝の気持ちが連鎖していくと思っています。
日本はこれから、マインドフルな生き方を世界に広げて行くという役割を担っていくと思っています。
日本人が当たり前に持っている精神性が、実は世界的にみると宝のようなものだったんですね。目に見えないものに感謝し、そうした感謝が世界中に伝播していくというのはとても素晴らしいことですね。
何かに対して「ありがとう」と言うわけではなく、ただ存在してくれていることに「ありがとう」と感謝できる精神性を、日本から世界に広げていきたいものですね。
川野先生や、対談を聴いてくださっている方にも「ありがとう」ということですね。
川野先生から皆様へメッセージ
最後に、皆様に一言お願いしてもよろしいでしょうか?
今日は長い時間にわたって話をお聴きくださり、ありがとうございました。
マインドフルネスを実践する際には、先ほどお伝えした「続けること」に加え、「自らを思いやること」も大切です。マインドフルネスをして壁にぶつかっても、自らに優しさを向け、時間を作ってあげるだけで自己肯定感を養うことができます。
マインドフルネスを続けること、そして自分に思いやりを持つこと、この2つができるだけで、マインドフルネスが日常に浸透してさらに豊かに生きられるようになるでしょう。
続けること、そして自分に思いやりを持つこと、この2点を僕も心がけていきたいと思います。とても勉強になりました!
本日は、川野先生、お聴きくださった皆様、ありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました!
前編をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
川野泰周さんプロフィール
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業後、同大学病院精神・神経科、国立病院機構 久里浜医療センターで医師として診療に従事。2011年より建長寺にて3年半にわたる禅修行の後、2014年より横浜にある臨済宗建長寺派 林香寺の住職となる。
現在は檀務とともに、坐禅会を定期的に開催。伊藤忠商事、DeNA、荏原製作所などの国内大手企業で、ビジネスパーソン向けにマインドフルネス研修を担当。
NHKラジオ「ラジオ深夜便」をはじめ、メディア出演を通じたマインドフルネス普及に勢力的に取り組んでいる。
■川野氏オフィシャルサイト:https://thkawano.website/