灰白質の役割とは?



灰白質とは、脳の部位の名前です。灰白質には、ニューロンと呼ばれる神経細胞の体(細胞体)が集まっています。灰白質には、運動神経、反射神経、感覚神経、記憶、思考力など、私たち人間が生きていく中で必要なあらゆる機能を司るニューロンがあるといわれています。特に脳の前方に位置する前頭葉や前頭前野の灰白質は、主に感情のコントロールに重要な役割を果たす部位です。

 

灰白質は私たちが受け取った情報を処理する中心的な部分です。例えば、飛んできたボールが視界に入ると、「ボールが飛んでくる」という視覚情報が灰白質に伝えられ、反射神経や運動神経が働くように指示が出されます。そのおかげでボールをよけたり、ボールを手でキャッチしたりすることができるのです。その情報処理の速度は一瞬ですので、自分自身では自覚できません。

 

灰白質は、私たちが年齢を重ねるほどにだんだんと小さくなって、密度が減るといわれています。そうすると情報を処理するのに時間がかかったり、情報を伝える速度が遅くなったりしていきます。年を取ると多くの場合、反応や感覚が若い頃に比べて鈍くなるのはそのためなのです。

 

瞑想が灰白質の減少を抑える



カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者たちは、24歳から77歳の100人を対象にして、加齢による灰白質の変化に瞑想がどのような影響を与えるのかを調べました。その結果、全体的に年齢が上がるほど灰白質の体積は減少していましたが、何年にも渡って瞑想を実践している人たちは減少が抑えられ、灰白質の体積が減った部位も狭かったとしています。

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2014.01551/full

 

瞑想が灰白質を増加させる



ハーバード大学とマサチューセッツ大学医学部の研究者らは、マインドフルネス瞑想が脳にどのような影響を与えるのかを調べました。その結果、マインドフルネスをベースとしてデザインされた8週間のプログラム (Mindfulness-based Stress Reduction course: MBSR) に参加した人々は、海馬の灰白質の密度が上がっていたと報告されています。

 

海馬は記憶と関連していることが知られていますが、その他に感情の調節にも関わる部分です。抑うつやストレスに関連した精神的な問題を抱えた人たちは、海馬の密度が低い、あるいは海馬のサイズが小さいといわれています。そのため、海馬の灰白質の密度が上がるということは、ストレスや感情が抑制されやすく、感情が安定しやすいことを示しています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3004979/

 

灰白質を増やすための瞑想のやり方


上記の研究でも実践されているMBSRというマインドフルネスをベースとした瞑想のプログラムは、米国を中心に多くの医療センターや健康を推進する団体によって実践されています。MBSR8回のクラスで構成されており、1回目のクラスで取り入れられているのがボディスキャンと食べる瞑想です。

 

ボディスキャン

 

ボディスキャンは集中力を高め、注意力を鋭敏にし、呼吸を落ち着かせるのに特に有効であるとされています。

 

MBSRの開発者であるJon Kabat Zinn氏によると、ボディスキャンでは自分の身体の各部位に「ハロー」と挨拶をしていくように、ゆっくりと意識を移動させながら、緊張や違和感を解きほぐしていきます。ボディスキャンをじっくりと行うと30から45分かかるといいます。

 

ボディスキャンにはいくつかのやり方がありますが、ここでは、瞑想の研究者でありMBSRの指導者でもあるTrish Magyari 氏によるやり方を解説します。

 

まず、仰向けに横になります。もしあればヨガマットの上に横になりましょう。脚は適度に開いて伸ばし、腕は身体に沿って自然に伸ばし、手のひらは上(天井)に向けます。もし寒くなりそうならば、身体の上にブランケットを掛けましょう。最初はただ横になり、床やマットの感覚を感じます。

 

左のつま先からスキャンを始めます。スキャンとは意識を向けてよく観察することです。ただ単純に、つま先の感覚を感じます。冷たいですか?力が入っていますか?呼吸をつま先に送るような感覚で、息を吸ったり吐いたりします。意識をつま先からかかとへ移動させると同時に、呼吸も左のかかとへ送るようにしましょう。

 

左のかかとから土踏まず、足首、ふくらはぎ、ひざ、太ももへと、意識と呼吸を移動させていきます。そこまで来たら今度は右脚でも同様に行います。

 

両脚が終わったら、今度は骨盤、腰、下腹、胸、肩、腕、手、首、そして頭部へと意識と呼吸を移動させます。

 

身体の各部位のスキャンが終わったら、それぞれの部位の関節を観察します。指がどのように手とつながっているか、その手がどのように腕とつながっているか、というように。ブランケットや冷たい空気が肌に触れる感覚にも注意を向けます。

出典:https://mbsrtraining.com/mindfulness-exercises/mbsr-body-scan/

 

 食べる瞑想



瞑想は食べながらも実践できることをご存知ですか? MBSRのプログラムで行われる食べる瞑想の多くは、最初の練習としてレーズンが使用されます。

 

まず、数粒のレーズンを手の上に置きます。レーズンを生まれて初めて見たものとして想像してください。そしてレーズンを手に置いたまま、全ての感覚を使って観察します。

 

まるで生まれて初めて見るかのように、指で持ってひっくり返したりしながら、どんな色をしているのか、表面のしわ、光を反射する部分と影の部分など、隅々までよく観察しましょう。

 

次に、肌触りを感じます。柔らかさ、硬さ、ざらざらとした感触、すべすべとした感触などを感じます。

 

その間に、さまざまな考えが頭に浮かぶでしょう。「なぜ私はこんな変なことをしているのだろう?」「なぜこんなことが必要なのだろう?」あるいは「こんなもの大嫌いだ」などといったことかもしれません。どのような考えであろうとも、ただその考えに気づき、そのままにしておきます。そして再びレーズンに意識を戻します。

 

レーズンを自分の鼻の下に持っていき、匂いに意識を集中させます。

 

レーズンを自分の耳の傍に持っていき、指で軽くつぶしたり、転がしたりして、何かしらの音が聞こえるか試してみます。

 

レーズンをゆっくりと口に運びます。腕の動きや、口の中に唾液がじんわりと出て来る様子にも意識を向けます。レーズンを噛まずに舌の上に置き、口の中の感覚を観察します。

 

十分に観察できたら、意識をしながらゆっくりとレーズンを噛みます。おそらく、口の片方にレーズンが運ばれることに気が付くでしょう。そしてレーズンの味に意識を向けます。

 

ゆっくりと噛みましょう。口の中の唾液が出てくる様子や噛むごとにレーズンの食感が変化していく様子に注意します。

 

飲み込む準備ができたら、飲み込みたいという意識に気が付き、レーズンが喉から食道、そして胃に落ち込んでいく様子に集中します。

 

最後に、食べる瞑想を実践した自分自身を称賛しましょう。

出典:https://mbsrtraining.com/mindfulness-exercises/eating-a-raisin-script/


食事のたびに食べる瞑想を実践するのは現実的とは言い難いですよね。しかしこのように自分の感覚や行動に丁寧に意識を向けたり、何かしらの対象に集中する練習を重ねることで、灰白質の密度アップが期待できるといわれています。



まとめ

灰白質は私たちのあらゆるパフォーマンスと関連深い脳の部位です。瞑想を継続的に実践することで、その灰白質の収縮を抑えて密度を上げ、若々しい脳を保てるとは嬉しい知らせですね。あなたもさっそく今日から瞑想を始めてみませんか。

 

※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。