継続的な瞑想は、脳構造を変化させ認知機能を向上する

あなたは朝、駅でサラリーマンと肩がぶつかったというだけで心が乱されてしまいませんか?

正直、私は乱されてしまいます。

でも、瞑想を始めてからというもの、少しイラッとしてもそれをひきずることなく元の状態に戻ることができるようになりました。

瞑想をすることで、イライラを感じてもスッとそれを手放して、元の感情に戻ることができるようになるのです。

いきなり胡散臭い宣伝のようになってしまいましたが、実はこれは、実際に研究で示されている事実でもあります[1]。

瞑想をすると感情制御が上手くなったり、集中力が上がったりするということが信頼のできる膨大な研究で確かめられています。

最近は瞑想ブームになってきたので、それは聞いたことがある、という人も多いかもしれません。

でも、その背景にどんな脳の変化があるのか知っている人は少ないのではないでしょうか。

今回は、瞑想が脳に与える影響について、2010年以降に報告された最先端の研究を紹介しながら解説します。


瞑想で脳の「エグゼクティブネットワーク」が強化される

 エグゼクティブネットワークは脳の社長

瞑想で最も大きく強化されるのは脳の変化(Executive Network)です。

エグゼクティブネットワークといわれてもピンとこないかもしれません。

エグゼクティブとは、簡単に言えば、会社の偉い人、管理職のことです。

会社のCEO(チーフエグゼクティブオフィサー)といえば最高経営責任者、会社のトップですよね、それと同じです。


脳についても同じです。脳の中で一番偉いネットワークがエグゼクティブネットワークです。いわば脳の社長として、運動や感情を司る他のさまざまな脳領域をコントロールしています。

少し専門的になってしまいますが、領域としては「背外側前頭前野(DLPFC)」や「前帯状皮質(ACC)」といった領域を指します(図)。

専門用語が多くて混乱するかもしれませんが、ひらたくいってしまえば、脳の前側にある前頭葉のことです。

DLPFCとACCは瞑想とは切っても切れない関係にあり、いろいろなところで出てくるのでぜひ覚えてみてください。

話が脇道にそれましたが、このエグゼクティブネットワークが脳全体をコントロールしているんです。

これらの領域、つまりDLPFCやACCが活動すれば、あなたはうまく不安をコントロールしたり、集中してこの記事を読むことができます。

ちなみに日本語では「実行機能系」などと訳されます。

本や人によってはこっちを使っているかもしれません。


 最先端の研究

さて、少し説明が長くなってしまいましたが、最先端の研究を見ていきましょう。

2012年にJournal of Neuroscienceという権威ある神経科学誌に発表された研究では、30名に6週間の瞑想訓練をしてもらい、31名の瞑想をしない人たちと比較しました[2]。

ちなみにですが、この実験はランダム化比較試験(RCT)といって、信頼性の高い実験手法に則って行われています。

結果、瞑想をしたグループでは統計的有意にエグゼクティブネットワークであるDLPFCの活動性が高まっていたことがわかりました。

それに伴い、感情制御課題の成績も上がっています。

つまり、瞑想をすることでエグゼクティブネットワークが強化され、感情制御がうまくなることが、信頼性の高いRCTによって示されたのです。


実際、2014年に報告されたメタ分析(複数の論文をまとめる研究手法。RCTよりも信頼性が高い)でも、瞑想を続けている人ではDLPFCやACCといったエグゼクティブネットワークが大きくなっていることが明らかになっています[3]。

78もの研究をまとめた別のメタ分析でも、瞑想をしているときにはDLPFCやACCなどのエグゼクティブネットワークが活動増加していることが分かっています[4]。

これらの研究をまとめると、瞑想でエグゼクティブネットワークが鍛えられる、というのはもう確実といっても過言ではないでしょう。


エグゼクティブネットワークが強化されるとどうなるか

瞑想でエグゼクティブネットワークが強化されることは分かりました。

でも、それの何が嬉しいのでしょうか。

それを知るためには、エグゼクティブネットワークが何をしているのか知る必要があります。

先ほど、エグゼクティブネットワークは脳で一番偉い、と話しましたが、実際に社長のような役割をしています。

あまりにも多いので、ここでは箇条書きで主要なものを列挙してみましょう。

  ・感情のコントロール
  ・食欲のコントロール
  ・ワーキングメモリ(記憶)
  ・メタ認知
  ・集中力
  ・利他的行動

などなど。

どれも、私たちが社会生活を送るのに必要不可欠な能力ですよね。

上司に急に仕事を振られてイライラしても、すぐに冷静になれる。

ダイエット中に甘いものに手を伸ばしたいと思う回数が減る。

記憶力やメタ認知が向上して頭が良くなる。

など、瞑想をしてエグゼクティブネットワークが鍛えられればこれらの効果が得られる可能性がありますし、実際にそれを示す研究は枚挙にいとまがありません。


というわけで、ここまでを一度まとめると

瞑想をするとエグゼクティブネットワークが鍛えられ、それによって感情や集中力がコントロールできるようになる

可能性があるということになります。


瞑想はデフォルトモードネットワークの活動を抑制する

雑念を生み出すデフォルトモードネットワーク

瞑想で変化するのは、実はエグゼクティブネットワークだけではありません。

もう一つ大きく変化するものがあります。

それがデフォルトモードネットワーク(Default Mode Network)です。

DMNとよく略されるのでここでも以下DMNと記述します。


このページにたどり着いたあなたは既にある程度瞑想に興味があると思うので、もしかしたら聞いたことがあるかもしれませんね。

DMNとは、主に「内側前頭前野(mPFC)」・「後帯状皮質(PCC)」などからなるネットワークです(図)。

要するに脳の内側を中心とするネットワークです。

DMNは何をしているのかというと、ざっくり言えば雑念を生み出していると考えられています。

仕事や勉強をしているときに、ふと過去の失敗について思い悩んでしまったりすることがありませんか?

あれはまさにDMNの仕業だと考えられます。

DMNは必ずしも「悪者」ではありませんが、仕事に集中しようと思ったらDMNを抑制してあげる必要があるんですね。

最先端の研究

さて、もうお気づきだと思いますが、瞑想でDMNの活動を抑制できるようになることが分かってきています。

最先端の研究を紹介しましょう。

2017年に報告されたドイツのフンボルト大学の研究では、瞑想の初心者26名に、脳活動計測をしながら瞑想をしてもらいました[5]。

その結果、瞑想によって雑念が減少しているときにはDMNの活動性が明確に低下していることが明らかになっています。

このような報告は後を絶たず、大規模なメタ分析でも、あらゆる種類の瞑想をしているときにDMNの活動性が下がっていることが示されました[4]。

先ほどは、瞑想でエグゼクティブネットワークが強化されるのは確実、という話をしました。

瞑想でDMNの活動をコントロールできるようになるのも、同じように確実と言えるでしょう。


DMNが抑制されるとどうなるか


さて、DMNの活動が抑制されるとどのようなことが起こるのでしょうか。

先ほどは「雑念」と一口にいってしまいましたが、実はもっといろいろなことと深く関わっていること分かっています。


その中でも、もっとも重要と思われるもののひとつがネガティブ感情との関連です。

DMNが活動している時、人はネガティブな感情に陥っていることが多いのです。

もっと極端な例になると、うつ病患者ではDMNの活動性が異常に高まっているということも明らかになっています[6]。

ということは、瞑想をすることでネガティブ感情を制御できるようになる、ということが言えそうです。

実際、6週間の瞑想で感情制御能力が向上したり、7週間の瞑想でポジティブ感情が増加した、なんていう報告も多くあります[2, 7]

瞑想がうつ病に効く、とまではまだ言い切れませんが、あなたの感情に良い影響をもたらす可能性は大いにあります。

ここまでをまとめると、

瞑想によってDMNをコントロールできるようになり、感情制御が上達する

可能性があるということになります。


まとめ


長くなりましたが、いかがだったでしょうか。

瞑想というと一昔前は「宗教っぽい」「うさんくさい」というイメージがつきものでしたが、今日紹介したように非常に多くの信頼性の高い研究によってその効果が実証されています。

瞑想をするとエグゼクティブネットワークが強化され、デフォルトモードネットワークが抑制できるようになる。

それによって集中力や感情制御が向上する。

これは最先端の研究によってほぼ確実なものとして研究の世界でも受け入れられつつあります。

あなたもぜひ、瞑想を取り入れて脳を鍛えてみてはいかがでしょうか。



※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。


引用文献

[1]Creswell JD, Pacilio LE, Lindsay EK, Brown KW. Brief mindfulness meditation training alters psychological and neuroendocrine responses to social evaluative stress. Psychoneuroendocrinology. 2014 Jun;44:1-12. doi: 10.1016/j.psyneuen.2014.02.007. Epub 2014 Feb 23. PMID: 24767614.


[2]Allen M, Dietz M, Blair KS, van Beek M, Rees G, Vestergaard-Poulsen P, Lutz A, Roepstorff A. Cognitive-affective neural plasticity following active-controlled mindfulness intervention. J Neurosci. 2012 Oct 31;32(44):15601-10. doi: 10.1523/JNEUROSCI.2957-12.2012. PMID: 23115195; PMCID: PMC4569704.


[3]Fox KC, Nijeboer S, Dixon ML, Floman JL, Ellamil M, Rumak SP, Sedlmeier P, Christoff K. Is meditation associated with altered brain structure? A systematic review and meta-analysis of morphometric neuroimaging in meditation practitioners. Neurosci Biobehav Rev. 2014 Jun;43:48-73. doi: 10.1016/j.neubiorev.2014.03.016. Epub 2014 Apr 3. PMID: 24705269.


[4]Fox KC, Dixon ML, Nijeboer S, Girn M, Floman JL, Lifshitz M, Ellamil M, Sedlmeier P, Christoff K. Functional neuroanatomy of meditation: A review and meta-analysis of 78 functional neuroimaging investigations. Neurosci Biobehav Rev. 2016 Jun;65:208-28. doi: 10.1016/j.neubiorev.2016.03.021. Epub 2016 Mar 28. PMID: 27032724.


[5]Scheibner HJ, Bogler C, Gleich T, Haynes JD, Bermpohl F. Internal and external attention and the default mode network. Neuroimage. 2017 Mar 1;148:381-389. doi: 10.1016/j.neuroimage.2017.01.044. Epub 2017 Jan 18. PMID: 28110087.


[6]Whitfield-Gabrieli S, Ford JM. Default mode network activity and connectivity in psychopathology. Annu Rev Clin Psychol. 2012;8:49-76. doi: 10.1146/annurev-clinpsy-032511-143049. Epub 2012 Jan 6. PMID: 22224834.


[7]Fredrickson BL, Cohn MA, Coffey KA, Pek J, Finkel SM. Open hearts build lives: positive emotions, induced through loving-kindness meditation, build consequential personal resources. J Pers Soc Psychol. 2008 Nov;95(5):1045-1062. doi: 10.1037/a0013262. PMID: 18954193; PMCID: PMC3156028.