幸福度を下げる心のさまよいとは


マインドワンダリングという言葉があります。
マインドはこころ、ワンダリングはさまよいを指し、心がさまよっている様子を意味します。

心のさまよいとはどんな状態かというと、仕事をしているのに気づくと机の模様をみてしまっていたり、勉強しているのに連絡が来ていないか気になったりすることを指します。

これでは集中力が下がり、仕事や勉強の効率が下がってしまいますよね。
それに加えて、2010年にScience誌に報告された研究[1]によれば、心がさまよっている状態では私たちの幸福度が低くなっているということが報告されています。
私たちは、実は目の前の物事に集中しているときが一番幸せなんですね。

それなら、なんとかして心のさまよいを減らしたいと思いませんか?
心のさまよいを減らすことさえできれば、あなたの仕事や勉強はこれまでの半分の時間で終わるかもしれません。
しかもこれまでよりも幸せな気持ちで取り組むことができるはずです。

心のさまよいと瞑想の関係


それを実現するためにもっとも有望な方法が瞑想です。
筆者は脳科学の研究をしていますが、瞑想以外に心のさまよいを減らすことができる方法を聞いたことはないぐらい瞑想という方法は有効です。

瞑想はどのようにして心のさまよいを減らすのでしょうか。
それは、DMNというネットワークの活動を下げることによると考えられています[2]。

DMNとはデフォルト・モード・ネットワークの略です。
覚える必要はありませんが、内側前頭前野や後帯状皮質など、脳の内側の領域からなります。
この領域が活動すると、あなたは「好きな人から連絡きてないかな」とか「疲れてきたな」と、心がさまよってしまうのです。

瞑想をすると、これらの領域の活動性を下げることができ、心のさまよいをコントロールできるようになるんですね。
これは凄いことです。

普段無意識に生活していたら、気づかないうちに心がさまよって仕事や勉強の効率が下がってしまいますが、瞑想を取り入れるという習慣を始めるだけでDMNの活動が下がり、心のさまよいが減り、仕事や勉強の効率が上がるのです。
おまけに幸福感まで上がることが期待できます。

とはいえ、瞑想を取り入れるのはあまり簡単ではないと思う人もいるかもしれません。
じっと座って何時間も、何年間も修行のように取り組むのはなかなかハードルが高いですよね。

たった8分間の瞑想で心のさまよいが減る


そんなあなたに、朗報とも言える研究が2012年に報告されています[3]。
なんでも、たった8分間の瞑想を一度しただけで、直後から心のさまよいが減り集中力が上がることが明らかになったのです。

その研究では、60名の大学生に

・瞑想*
・リラクゼーション**
・読書

の中から一つを8分間してもらい、その後の心のさまよい度合いを調べました。
*今回の瞑想では呼吸に意識を払い、意識がそれたらまた呼吸に戻す、ということを繰り返すスタンダードなものでした。
**リラクゼーションでは単に寝ずにリラックスしているように伝えられました。

心のさまよい度合いを調べるために、10分間のGo/NoGo課題と呼ばれる認知テストを行いました。
これは簡単なテストで、画面に”O”が出たらボタンを押し(Go)、”Q”が出たらボタンを押さない(NoGo)というものです。
シンプルですが、この成績が心のさまよい度合いを反映することが繰り返し確かめられています。

要するに、ちょっとした認知テストで参加者の心のさまよい度合いを調べたということがわかれば大丈夫です。

さて、少し話が込み入ってきましたので、結果を紹介していきましょう。
結果、8分間の瞑想をしたグループでは、Go/NoGo課題でのミスが他のグループと比べて約半分に減っていました。
しかも、その集中度合いが10分間を通じて一定に保たれていることもわかりました。

これは何を意味するかというと、瞑想によって集中力が上がったこと、それから心がさまようことなく10分間集中し続けることができたということです。

これは驚きの結果ではないでしょうか。
たった8分間、瞑想で呼吸に意識を向けるという作業をしただけで、その後の集中力テストのミスが半分になり、心のさまよいが減少したのです。

これは、おそらくたったの8分間の瞑想であっても脳のDMNをオフにすることができ、脳のモードが切り替わったのではないかと推察されます。

もしあなたがこれから受験などのテストを受けるなら、試験前にちょっと瞑想をするだけで脳のスイッチが切り替わり、ミスを減らすことができるかもしれません。
仕事の効率を簡単に上げることもできるかもしれません。

心のさまよいが減るメカニズムとは


ところで、なぜたった8分間の瞑想で心のさまよいが減ったのでしょうか。
それが分かれば、あなたが実際に瞑想をしてみるときに、より効率的に瞑想を実践できる可能性があります。
この記事の最後に、この点について考えていきましょう。

結論から言うと、それは瞑想によって「モニタリング能力」「抑制能力」が上がったためである可能性があります。

よく分からない能力が二つ出てきましたね。
それぞれ説明していきます。

モニタリング能力
自分の脳状態を「分かる」能力。
例えば「今自分気が散っているな」とか「今集中力が逸れたな」などと知覚する能力のことです。
メタ認知能力などとも呼ばれますね。

抑制能力
何か別のことを考えてしまった時に、それを抑える能力のことです。
余談ですが、食欲を抑えるとか、怒りを抑えるのも近い能力と言えます。

実はこれら2つの能力は、瞑想をするときに鍛えられる能力であると言うことに気づくでしょうか。

瞑想をしているときは呼吸に意識を向けますが、ときどき気が逸れて他のことを考えてしまいます。
その度に「気が逸れた」と気づいて「呼吸に意識を戻そう」と切り替えていきます。
これはまさにモニタリング能力と抑制能力を鍛えるプロセスと言えます。

そして大事なのは、なぜこれによって心のさまよいが減り集中力が上がったのかと言う点です。
でも、よく考えてみればこれは当たり前なことかもしれません。

心のさまよいを減らし集中力を上げるためには、常に自分の状態に気づき、そして少しでも逸れたら元に戻すことの繰り返しが必要であるからです。

そしてこの神経回路がオンになれば、無意識的に自然と集中力が上がるのだと考えられます。
事実、瞑想を続けていると、これらの能力を司るACCやDLPFCなどと呼ばれる前頭葉の領域が大きくなることが知られています[4]。

まとめ


というわけで、一見とても難しそうなイメージのある瞑想ですが、初心者であってもたった一回8分間の瞑想をするだけで脳のモードを切り替えることができる可能性が示されました。

この研究から示されるように、瞑想は意外にも簡単に取り入れることができるものなんですね。
しかも、最近では瞑想のやり方を音声で教えてくれるアプリもあります。
弊社Relookのアプリもその一つで、最もコンテンツが充実した瞑想アプリだと考えています。

ちなみに、アプリでの瞑想にも大きな効果があるということは多くの研究で確かめられています[5]。
なので、ちょっと最近心がさまよっているなと感じているなら、ぜひ一度試してみてください。
あなたの勉強や仕事が少し効率良くなり、幸福感も上げることができると思いますよ。

Relookアプリについてはこちらを参照してみてください。


※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。

引用文献

[1] Killingsworth, M.A., and Gilbert, D.T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science. 330, 932.

[2] Scheibner, H.J., Bogler, C., Gleich, T., Haynes, J.D., and Bermpohl, F. (2017). Internal and external attention and the default mode network. Neuroimage 148, 381–389. Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.neuroimage.2017.01.044.

[3]Mrazek, M.D., Smallwood, J., and Schooler, J.W. (2012). Mindfulness and mind-wandering: Finding convergence through opposing constructs. Emotion 12, 442–448.

[4] Fox, K.C.R., Nijeboer, S., Dixon, M.L., Floman, J.L., Ellamil, M., Rumak, S.P., Sedlmeier, P., and Christoff, K. (2014). Is meditation associated with altered brain structure? A systematic review and meta-analysis of morphometric neuroimaging in meditation practitioners. Neurosci. Biobehav. Rev. 43, 48–73. Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.neubiorev.2014.03.016.

[5] Linardon, J., Cuijpers, P., Carlbring, P., Messer, M., and Fuller-Tyszkiewicz, M. (2019). The efficacy of app-supported smartphone interventions for mental health problems: a meta-analysis of randomized controlled trials. World Psychiatry 18, 325–336.