幸せになるにはどうすればいいのか?


私の1日のルーティンは、起きたら布団の中で研究をし、朝ごはんを食べ、散歩をして頭をリセットしたらまた研究をして、ということの繰り返しです。
疲れたと思ったらYoutubeで動画を見たり音楽を聴くこともあれば、友人と会って話すこともあります。
これらは何のためにやっているのかと言えば、幸せになるため、ということに集約されるでしょう。

しかし、2010年にScience誌に報告されたある研究によれば、実は「何をするか」というのは大して幸せかどうかに影響しないのだそうです。

ちょっと直感的に何を言っているのか分からないかもしれませんね。
今日は、その研究について紹介していきます。

その後、幸せになるにはどうすればいいのかについて、脳科学的なメカニズムの解説を交えながら、考えていきましょう。

 

マインドワンダリングをしていると私たちは幸せになれない?

2010年にScience誌に「さまよう心は不幸な心」というタイトルの論文が報告されました[1]。
科学の論文のタイトルにしては詩的なタイトルではありませんか?

この研究で調べたのは、どんなときに人は幸せなのか?という疑問です。
とても素朴な疑問ですよね。
音楽を聴いている時でしょうか、それとも人と話している時でしょうか。

それを明らかにするために、この研究ではとても地道な実験をおこないました。
その実験とは、2250人もの人を対象に、1日のうちランダムなタイミングで以下のような質問を投げかけるというものです。

①今幸せですか?
②今何をしていますか?
③今やっていることとは関係ないことを考えていましたか?

これらの質問を、スマートフォンの通知を利用して大量におこなったのです。
それによって、参加者が仕事をしているとき、音楽を聴いているとき、さらには性行為をしているときまで、その人の幸せ度合いを調べました。
とても地道です。

③の質問がなにやら不思議な質問かもしれませんが、これについてはあとで詳しく話すことにしましょう。

まずは結果が気になりますね。
どんなときに私たちは幸せなのか。


そしてこの研究では驚くべきことが分かりました。
私たちの幸福度は「今何をしているか」とはあまり関係がなかったのです。

音楽を聴いていても、本を読んでいても、それほど幸福度と深く関係するようには見えませんでした。
いや、正確にいうと、たしかに運動をしているときの方が仕事をしているときよりも幸福度が高い、というような傾向はあるにはあるのですが、そんなことよりも圧倒的に幸福度に影響を与える要素が明らかになったのです。

それが③の質問によって発見されました。
③の質問とは「今やっていることとは関係ないことを考えていましたか?」という質問でした。

この質問から明らかになったことは、「今やっていることと関係ないことを考えている人ほど不幸である」ということでした。
例えばあなたが、仕事の最中に明日の予定について考えていたりすると幸福度が低いとか、音楽を聴いていても昨日の失敗について反すうしていると幸福度が低いっていうことが分かったんですね。

そうすると、「ハッピーなことについて考えていたらいいんじゃないのか?」と思うかもしれません。
例えば、仕事中であっても明日のデートのことについて考えていたら幸せなんじゃないか、ということです。

でも結果は意外で、「ハッピーなことを考えているときでも、無関係なことを考えていないときと幸福度は同じぐらい」だということが分かりました。

ちなみに、嫌なことを考えているときはそれと比べて幸福度が40%も低く、ハッピーでも嫌でもないことを考えているときはそうでない時に比べ15%ぐらい低いことが示されました。

幸福度を式にするとこんな感じになりますね。
無関係なことを何も考えていないとき≧ハッピーなこと>どちらでもないこと>嫌なこと

ということで、直感に反して、私たちが一番幸せなのは「無関係なことを何も考えていないとき」だったのです。
つまり、今やっていることに集中しているときにこそ私たちは一番幸せなんですね。

つい、このブログ記事を読んでいるときにもスマホのことが気になったりしませんでしたか?
実際、驚くべきことに私たちの日常の46.9%で、無関係なことを考えてしまうこともこの研究で明らかになっています。
今あなたが他のことを考えてしまっていたとしても不思議ではありません。
でも、幸せになろうとしたら、それを何とかしないといけないんですね。

ところで、ここまで書いてきたような、「関係ないことを考えてしまう」ことをマインドワンダリングと言います。
Mind Wanderingですね。
直訳すると「心のさまよい」で、関係ないことに心がさまよってしまって集中できていない状態のことを表しています。

この記事でも、以下マインドワンダリングという言葉を使っていきましょう。

マインドワンダリングの状態だと私たちは幸せではない。

ではマインドワンダリングしてしまう状態とはどんな脳の状態なのでしょうか?
どうすればマインドワンダリングを止められるのでしょうか?

※ちなみに、勘の鋭い人は次のような疑問を持つかもしれません。
「マインドワンダリングするから不幸になる」んじゃなくて「不幸だからマインドワンダリングしてしまう」んじゃないの?
という疑問です。
確かに、不幸が重なるとつい関係のないことを考えてマインドワンダリングしてしまうという関係はありそうです。
この研究ではこの点も検証していて、タイムラグ解析という解析をおこなうことで、「マインドワンダリングをすると不幸になる」という関係性があるだろうということも示しています。興味のある方は実際に論文読んでみてください。


DMNとマインドワンダリング


さて、心のさまよいであるマインドワンダリングの状態では私たちは幸せではない、という興味深い事実が明らかになりました。
では、そんなとき脳の中では何が起きているのでしょうか。
少しだけ考えていきましょう。

この疑問は、2007年のScience誌に報告された論文が明らかにしました[2]。
この研究はとてもシンプルです。

マインドワンダリングしているときの脳活動を計測したのです。
その結果、マインドワンダリングしているときに特に活動が大きくなる脳領域が明らかになりました。

それは、内側前頭前皮質(mPFC)や後帯状皮質(PCC)を中心とするDMNというネットワークです。

いきなり3つも専門用語が出てきてしまいましたので説明していきましょう。
mPFCとはちょうど眉間のすこし奥にある、前頭葉の内側のこと。
PCCはそこからさらに10cmほど奥にいったところにある領域のことです。

いや、場所を言われてもよく分からないと思うんですが、とにかくこれらの領域はDMNというネットワークを作ります。
DMNというのはデフォルトモードネットワーク(Default Mode Network)の略です。

どんどん訳が分からなくなってきました。
実はそれもそのはず、このDMNというネットワーク、最初は謎のネットワークだったんです。

発見の由来を少しお話しすると、科学者が脳活動を計測していると、人が何もしていない時でさえも脳は活動しているということが明らかになりました。
その時に活動している領域こそ、mPFCとPCCを中心とするDMNだったんです。

では、何もしていないのに活動するDMNって何をしているのか?
その役割はあまりよく分かっていなかったのですが、それがこの論文で明らかになったんですね。
だからこそ、この論文はScienceというもっとも有名な科学誌に掲載されたのだと思います。

話がややこしくなってきたので一度整理しましょう。

・mPFCとPCCを中心とするDMNというネットワークは、何もしていない時に活動する。
・そのDMNは、特にマインドワンダリングしているときに活動が大きくなることが分かった。
・つまり、マインドワンダリングを生み出すのはDMNかもしれない。

といったことが、だんだんと分かってきたんですね。

 

マインドワンダリングとマインドフルネス


さて、ここまで大きく分けて二つのことが明らかになりました

①マインドワンダリングしていると不幸
②マインドワンダリングはDMNというネットワークが生み出しているかも

の二つです。

となると気になるのは、DMNをコントロールする方法ではないでしょうか?
DMNをコントロールすることができれば、マインドワンダリングを抑えて、幸せになれるかもしれません。

どうすればいいのでしょうか。
ここで、もっとも有望な方法が「瞑想」「マインドフルネス」なんですね。

むしろ、瞑想やマインドフルネスは、マインドワンダリングをコントロールするための方法である、といってしまってもいいかもしれません。
なにしろ、マインドフルネスの極意とは「今ここに心を向ける」ということなんです。
これってマインドワンダリングを制御しよう、ということに他なりません。

でも本当にそんな効果が、ただ座っているだけのような瞑想で得られるのでしょうか。
それを確かめるために、実際に信頼のおける研究をいくつかみてみましょう。

まずは、2011年にPNAS誌に報告された研究[3]がとても参考になります。
ちなみにPNASは、Scienceほどではないものの、科学の世界では誰もが憧れる非常にレベルの高い雑誌です。

この研究では、10年以上かつ平均1万時間以上の経験がある瞑想のプロを12名、比較対象として13名の瞑想初心者を実験に呼びました。
そして、実際に瞑想をやっているときや、ただ安静にしている時の脳活動を計測しました。

結果、瞑想のプロでは、瞑想中も安静時にもmPFCやPCCの活動が低いことが明らかになりました。
mPFCとPCCって何だったかというと、そうです。
DMNというネットワークの中心となる領域でした。

マインドワンダリングを生むDMNの活動が、瞑想のプロでは抑えられていたんですね。
それによって「今ここに没頭する」という状態を生み出しているのでしょう。

とはいえ、1万時間も瞑想をするなんて余裕は私たちにはなかなかありません。

でも安心してください。
初心者であっても瞑想をするとDMNの活動を下げることができることが研究で分かっています[4]。
詳細は省きますが、瞑想中の初心者の脳活動を計測すると、mPFCやPCCの活動が下がることが明らかになっているんですね。

そして、大事なのはそれによって本当にマインドワンダリングが減るのか?
さらにはそれによって本当に幸福度が上がるのか?
ということでしょう。

これも実際に、数多くの論文で示されています。
特に、いくつもの論文をまとめて精査したメタ分析でも、瞑想によってマインドワンダリングが減少し、幸福度が上がることが示されており信頼に値します[5]。


マインドフルネスを取り入れる


さて、だいぶ長くなってきましたが、最後にマインドフルネスや瞑想のやり方を簡単に説明しておきましょう。
もうすでにマインドフルネスに詳しい人は飛ばしてもらって構いませんよ。

マインドフルネスの極意とは「今ここに意識を向けること」です。
なので、必ずしも座って行う必要はありません。

実は食べながらでも、歩きながらでもできるんですね。
そのやり方とは、まさしく「今ここに意識を向ける」だけです。

例えば食事中のマインドフルネスでは、米を口に入れたらゆっくり噛み締めて、味わってみる。
そうするといつもは気づかなかった米の香りや甘味に気づくでしょう。

歩く時には、足の筋肉の動きや足の裏の感覚に意識を向けてみてください。
そうすると、今ここに意識が向くようになり、マインドワンダリングは自然と消えていることに気づくかもしれません。

瞑想って実は難しい物ではなくて、こんな感じで日常に取り入れることができるんですね。


とはいえ、まだイメージが湧かない人もいるかもしれません。
そんな人はぜひ、Relookのスマホアプリをインストールしてみてください。
細部までこだわられた音声コンテンツで、瞑想のやり方をマスターすることができます。興味を持たれた方は是非一度下記のリンクから参照してみてください。

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まとめ

以上になりますが、まとめておきましょう。

 ・マインドワンダリングしていると不幸になりがち
 ・DMNという領域がマインドワンダリングを司るかも
 ・瞑想・マインドフルネスを取り入れるとDMNを制御し幸福度が上がる可能性がある

という流れでしたね。

瞑想はだいぶ普及してきましたが、まだまだやっている人は少数派かもしれません。
でも、科学の世界では、脳を鍛えるなら運動か瞑想かというぐらいに、瞑想の効果が明らかになってきています。
瞑想は脳を変えるんです。

そんな瞑想の効果を使わない手はない、と私は思っています。
まずは一度、気軽に取り入れてみてはいかがでしょうか。

※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。

引用文献

[1] Killingsworth, M. A., & Gilbert, D. T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science, 330(6006), 932. https://doi.org/10.1126/science.1192439

[2] Mason, M. F., Norton, M. I., Horn, J. D. Van, Wegner, D. M., Grafton, S. T., Macrae, C. N., Mason, M. F., Norton, M. I., Horn, J. D. Van, Wegner, D. M., Grafton, S. T., & Macrae, C. N. (2007). Wandering minds: The Default Network and Stimulus Independent Thought. Science, 315(January), 393–395. https://doi.org/10.1126/science.1131295

[3] Brewer, J. A., Worhunsky, P. D., Gray, J. R., Tang, Y. Y., Weber, J., & Kober, H. (2011). Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 108(50), 20254–20259. https://doi.org/10.1073/pnas.1112029108

[4] Scheibner, H. J., Bogler, C., Gleich, T., Haynes, J. D., & Bermpohl, F. (2017). Internal and external attention and the default mode network. NeuroImage, 148(September 2016), 381–389. https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2017.01.044

[5] Eberth, J., & Sedlmeier, P. (2012). The Effects of Mindfulness Meditation: A Meta-Analysis. Mindfulness, 3(3), 174–189. https://doi.org/10.1007/s12671-012-0101-x