最高の集中状態「フロー状態」とは

あなたは、何かに熱中して気付いたら夜になっていた、なんて経験はありませんか?

このように、目の前の物事に没頭している状態はフロー状態と呼ばれます。

フロー状態のとき、私たちは最高に幸せで、かつ最高のパフォーマンスを発揮できると考えられています。

オリンピックに出るようなトップアスリートが最高の記録を出すような時も、フロー状態に入っているのかもしれません。

さて、このような不思議な精神状態であるフローですが、脳の中ではどんなことが起こっているのでしょうか。

今日の記事では、この素朴な疑問に立ち向かった研究論文を紹介していきましょう。


研究内容紹介


唐突ですが、あなたが脳研究者だとして、「フローの最中の脳活動」を知ろうと思ったらどんな実験をしますか?

アスリートの頭に脳波計を取り付けて、実際にスポーツをしてもらうでしょうか。


実は、これはとても難しいことなんです。

その理由について少しだけ説明してみましょう。


まず、ヒトの脳活動を記録する主な装置は2種類あります(実際にはもっとありますが、主要なものに絞ります)。

そして、そのどちらも、ヒトが運動している際の脳活動を記録するのがとても難しいのです。


一つはfMRIと呼ばれる装置。

日本語で機能的核磁気共鳴です。いかつい名前ですね笑

この装置は病院で皆さんもみたことがあるかもしれませんが、とても巨大な装置なんです。


イメージしづらいかと思いこの章の上の部分に画像を載せておきました。

これは一台で数億円する高価で大きなな装置であり、基本的に一度設置したらそこから動くことはできません。

なので、この装置で運動中の脳活動を記録することは難しく、ましてやそのような制限された状態でフロー状態に入ってもらうことは不可能に近いでしょう。


もう一つは脳波計

シータ波とか、アルファ波とかいう言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、このような脳波を計測する時に使うのが脳波計です。

こちらは上記のfMRIと異なり安価で、多少であれば体を動かすこともできるコンパクトな装置です。

なら運動中の脳活動も記録できると思うかもしれません。


しかし、脳波の問題点は「ノイズに極めて弱い」という点です。

例えばあなたが脳波計測中にジャンプをしたりすれば、その動きによって脳波は大きく揺らいでしまいます。

歯軋りをしたり笑ったり喋ったりすれば、その際の筋肉の電気活動が脳波に記録されてしまいます。


これらはどちらも、脳波ではないただのノイズです。

これが過剰になると、脳波の解析はできなくなってしまいます。

そのため、脳波計を用いたとしても、スポーツをしている最中のアスリートの脳波を測ることは極めて難しいのです。


このような理由で、アスリートがスポーツをしている最中の脳活動を計測することは不可能に近いことがわかります。

だから、フロー状態がこれだけ興味深い状態なのにも関わらず解明が進んでいなかったんですね。


それでは、フロー状態の脳メカニズムを知るのは諦めるしかないのでしょうか。

この問題を解決するために、研究チームは問題を少し単純化しました。


つまり、人々がテトリスに熱中している時の脳活動を調べることにしたのです[1]。


それも、テトリスの難易度を常に最適な状態に調整することで、簡単すぎず難しすぎず、ちょうど参加者が熱中できるレベルに保ちました。

この際の脳波を計測することで、フロー状態の脳活動を調べようとしたのです。


読んでいる人の中には、そんな人工的に作り出した熱中状態をフローとは言えない、と思う人もいるかもしれません。

その指摘はもっともですが、フローの概念を提唱したチクセントミハイ氏は、フローに入る条件の一つに「今やっていることが難しすぎず簡単すぎないこと」を挙げています。


実際、あなたがもしひたすら1+1のような簡単すぎる足し算をし続けたり、逆に一ミリも知らないアラビア語の読解問題を解かされたりしても熱中できませんよね。

自分のやっていることがちょうど自分のレベルに合っていることは、フローに入るとても重要な条件でもあるのです。


そのため、研究者らのこの工夫はフローを研究する上で独創的かつ妥当な選択だと言えるのではないでしょうか。

説明が長くなってきたので、このあたりで実験内容をまとめておきましょう。


研究者らは実験参加者に「フローに入りやすいように難易度をリアルタイムで調節するテトリス」を行ってもらい、その際の脳波を計測しました。

ちなみに実験参加者数は17名で、また比較対象の実験条件として、簡単すぎるテトリスと難しすぎるテトリスもやってもらいました。

それでは実験結果の説明に移っていきましょう。


実験結果


実験の結果、興味深いことがわかりました。

それは、フロー状態のときには明確に前頭葉のシータ波が強いということです。

とはいえシータ波のことを知らない人にはわかりませんよね。


この前頭葉のシータ波が何を意味するかというと、平たく言えば「前頭葉がフル回転している状態」を反映していると考えられます[2]。

前頭葉といえば、私たちの理性を司る領域と考えられています。

食べたいものを我慢したり、何か勉強に取り組んだりするときには前頭葉が強く活動します。


今回の実験結果からわかることは「フロー状態では前頭葉がフル回転している」ということですが、これは不思議な状態です。

というのも、フロー状態に入って熱中している時には、主観的にはあまり理性を働かせているとは思えないからです。

理性も何も考えていない無心の状態で熱中しているフロー状態なのにも関わらず、理性を司る前頭葉がフル回転しています。


このような、今ここに集中して無心でものごとに取り組む状態というのは、決して理性をなくして動物のようにふるまっている状態なのではなく、人間的な理性を司る前頭葉がフル回転している特殊で不思議な状態だということが分かったんですね。


ちなみに比較対象の「簡単すぎる条件」と「難しすぎる条件」では前頭葉のシータ波があまり強くは観測されませんでした。

また、この結果は2016年に発表された「暗算に熱中している際の脳活動」を調べた研究でも確認されており、フロー状態の際には前頭葉がフル回転しているということが確認されました[3]。


フロー状態と瞑想の関連性


さて、このメディアは瞑想のメディアです。

ということで、フロー状態と瞑想の深い関係性について少し言及しておきましょう。


上記の研究では、フロー状態の時には前頭葉のシータ波が強く出て、前頭葉がフル回転している状態だという話をしました。

このような脳活動が、なんと瞑想をしている際にも強く観測されるのです[4]。


瞑想とフロー状態の共通点は何か、というと、どちらも今ここに集中して無心になっている状態を指します。

やはり、無心になって何かに熱中したり、今ここに集中する状態というのは、理性を司る前頭葉がフル回転している状態なのだということでしょう。


このような状態は、過去のことや未来のことについて考えを巡らせてしまうようなマインドワンダリング(心のさまよい)状態と比較してとても幸福度が高い状態であることが示されています[5]。

そのため、瞑想をしたり、フロー状態に入って熱中している時にはとても幸せな状態だといえそうですね。


さらに、瞑想はすればするほど前頭葉が鍛えられ、今ここに集中できる状態になっていくことがわかってきています[6]。

ぜひ気軽に瞑想を取り入れて、前頭葉をフル回転せる習慣をつけてみてください。


まとめ


従来研究するのが難しいと考えられていたフロー状態の脳メカニズムを、独創的な実験で明らかにした研究を紹介してきました。

フロー状態で熱中している時、私たちの前頭葉はシータ波の状態でフル回転しているということがわかりました。


そしてこれは、瞑想をしている時の脳状態にとても近いんでしたね。

普段の生活でフローに入ったり、無心になって何かに熱中するのは必ずしも簡単ではないと感じるかもしれません。


そんなときは瞑想の訓練を積むことで徐々に前頭葉が鍛えられ、少しずつフロー状態に入りやすい脳を作ることができるかもしれません。

ぜひ1日5分からでも、取り入れてみてはいかがでしょうか。


※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。

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参考文献

1. Ewing, K.C., Fairclough, S.H., and Gilleade, K. (2016). Evaluation of an adaptive game that uses EEG measures validated during the design process as inputs to a Biocybernetic loop. Front. Hum. Neurosci. 10, 1–13.

2. Cavanagh, J.F., and Frank, M.J. (2014). Frontal theta as a mechanism for cognitive control. Trends Cogn. Sci. 18, 414–421.

3. Ulrich, M., Keller, J., and Grön, G. (2016). Neural signatures of experimentally induced flow experiences identified in a typical fMRI block design with BOLD imaging. Soc. Cogn. Affect. Neurosci. 11, 496–507.

4. Aftanas, L.I., and Golocheikine, S.A. (2001). Human anterior and frontal midline theta and lower alpha reflect emotionally positive state and internalized attention: High-resolution EEG investigation of meditation. Neurosci. Lett. 310, 57–60.

5. Killingsworth, M.A., and Gilbert, D.T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science. 330, 932.

6. Fox, K.C.R., Nijeboer, S., Dixon, M.L., Floman, J.L., Ellamil, M., Rumak, S.P., Sedlmeier, P., and Christoff, K. (2014). Is meditation associated with altered brain structure? A systematic review and meta-analysis of morphometric neuroimaging in meditation practitioners. Neurosci. Biobehav. Rev. 43, 48–73.