催眠術は存在する

あなたは催眠術が現実に存在すると思いますか?

テレビで催眠術にかかる芸能人を見ても、ヤラセじゃないの、と思うのが普通かもしれません。

私もずっと半信半疑でした。


でも、驚いたことに催眠術は一流の科学誌に掲載される、れっきとした研究対象になっているのです。

つまり、催眠術は現実に存在して、その脳科学的メカニズムが研究されているんですね。


この記事では、まず最新の研究で明らかになった催眠の脳科学的メカニズムを解説します。

その後、では催眠って何かの役に立つの?という点について考えていきましょう。


催眠の脳科学的メカニズム

私は論文を調べるのが好きなのですが、催眠を脳科学的に解き明かした研究を調べていると、ある論文[1]を発見しました。

催眠術にかかっている最中の脳活動を調べた、シンプルな研究です。


話がそれますが、この論文を発見したとき私は驚きました。

なぜなら、PNAS誌といいう、研究をしている人なら誰もが憧れる一流の雑誌に掲載されていたからです。

しかも、著者のポズナー氏といえば認知機能の脳研究の第一人者でした。

催眠術というといかにもうさんくさそうな現象ですが、一流の研究者によって一流の科学誌に掲載されるほど、しっかりとした研究がなされていたのです。


さて、研究内容に話を戻しますが、この研究では16名を催眠術にかけて、そのときの脳活動を計測しています。

すると、驚くべきことが明らかになりました。


ある重要な脳領域、前帯状皮質(ACC)が全く活動しなくなっていたのです。

脳科学の研究をしている私にとっては驚くほどの変化でした。


急にACCと言われても何のことやら、という感じだと思いますが、次節で詳しく説明させてください。

ちなみにこの結果は、2018年にCerebral Cortex誌に報告されたより大規模な研究[2]でも確かめられています。

この雑誌も、神経科学者なら誰もが憧れる一流誌です。


さて、次の節ではそのACCとはなんぞやということを解説していきます。

これを理解すると、いかに催眠が驚くべき現象なのかわかってくると思いますよ。


前帯状皮質(ACC)の役割

ちょっと専門的な話になってしまいますが、それほど難しいことはないのでお付き合いください。


ACCはどんなときに活動するのか、まずは箇条書きで示すと

・行動を抑えるとき[3]

・不安を感じているとき[3]

・認知的な判断をするとき[4]

・学習しているとき[5]

などが挙げられます。


なんだかいろんなことに関わっているんだなあという感じかもしれませんが、これらには共通点があります。

それは、人間が社会生活を送る上で必要不可欠な機能だということです。


職場で衝動的に叫び声を上げてしまったらクビになりますよね。

そんなことをしないために、社会において私たちはACCを活動させて衝動を抑える必要があります。


不安を感じることも、実は社会生活を送るために重要です。

不安を感じるからこそ、私たちは働いてお金を稼ぎます。


認知的な判断も学習も、私たちが正常に社会生活を送る上で欠かせません。


このように、ACCは私たちが社会生活を送るために欠かせない脳領域なのです。


だからこそ、催眠によって(一時的に)ACCが活動を停止するというのは驚くべきことだとは思いませんか?


催眠でACCが活動停止するとどうなるか

催眠術によってACCが活動を停止するというのは、ちょっと考えてみると納得がいきます。


ACCの役割を復習すると、

 ・行動を抑えるとき

 ・不安を感じているとき

 ・認知的な判断をするとき

 ・学習しているとき

でした。


つまり、催眠によってこれらの機能が一時的に停止する、ということがいえそうです。

そうなるとどうなるのか、考えてみましょう。


催眠術をかけると、催眠術師がいったことをそのまま実行するようになってしまいます。

たとえば「あなたは犬になります」と言われたら、ワンワン吠えてしまいますし、「だんだん眠くなります」と言われたらスッと寝てしまいます。


これは、ACCが停止したことで認知的判断ができなくなり、行動を抑えることもなくなってしまったから起きた、と考えられます。


また、催眠術から覚めた後は「スッキリした!」という人がいます。

これはもしかすると、ACCが停止したことで不安から一時的に解放されたからかもしれません。


さらに、催眠術にかかっているときの記憶というのはあまり残らないのだそうです。

これは、学習をつかさどるACCが活動を停止してしまっているためである可能性があります。


少しぼかした表現が多くなってしまったのは、催眠の研究がまだまだ多くはないために適当なことはいえないためです。

ですが、このように考えると催眠が効くメカニズムというのが少しずつわかってくるのではないでしょうか。


ここまでをまとめると、催眠にかかるとACCが活動を停止し、上記したようなさまざまな機能に変調が起こる、ということになります。


催眠に期待される効果

さて、催眠の脳科学的メカニズムについて、少し理解してもらえたでしょうか。

ここまできて気になるのは「催眠って何かの役に立つのか?」ということではないでしょうか。


催眠は古来、さまざまな効果があるとされ治療にも用いられてきました。

科学的にそのような治療効果が本当にあるのかどうかは、これからの研究を待たなくてはなりません。

ですが、以下に述べるような効果が得られる可能性があります。


以下は特にエビデンスが少なく仮説的な意味合いが強くなるため、参考程度にお読みください。


①不安から解放される

催眠療法の主要なターゲットの一つが「不安」です。

これは、これまでに述べてきたこととピタリと合致します。

というのも、不安をつかさどるACCの活動を、催眠は止めることができるからです。

これまでの研究から催眠がACCの活動を停止することはほぼ確実と言えそうですし、またACCが不安をつかさどることも非常に多くの研究で示されている事実です。

これらを掛け合わせれば、催眠によって一時的にであっても不安から解放されることができる可能性は大いにありそうです。


②疲労が回復できる

また、ACCはいわば「頑張る」ために重要な脳領域でもあり、同時に疲労とも深く関係します[6]。

不安の多い現代社会においては、常にACCがオンになっており、なかなか休まることがなさそうです。

そのACCを催眠によってオフにすることで、疲労回復を促進できるかもしれません。


③寝つきが良くなる

そして、ACCを休めることで心地よく睡眠に入っていくことができる可能性があります。

さきほど、ACCというのは「がんばる」ことに関わると書きましたが、より厳密にいうとACCは「交感神経」の活性化に関わります。

ACCが活動すると交感神経がオンになり、コルチゾールというストレスホルモンが分泌され、私たちは活動的になります。


一方で、熟睡するためには交感神経をオフにして、リラックス状態に入る必要があります。

しかし、うまく睡眠に入れないという人は、このスイッチをうまくオフにできていない可能性があります。

そうすると睡眠の質が悪くなってしまう。


それを防ぎ、きっちり交感神経をオフにして寝るためには、

ACCをオフにできる催眠が有効である可能性があります。


催眠を体験する

さて、ここまで催眠に効果があるかも?という話をすると、一度体験してみたい、という人もいるかもしれませんね。

でも、催眠ショーのような大袈裟なものに参加するのは怖い、という人もいるでしょう。


ここは宣伝になってしまうのですが、そんな人はRelookアプリを使ってみるのもいいかもしれません。

実は、Relookアプリの中にはいくつか催眠音声が提供されているのです。


たとえば日本催眠術協会の理事を務め、テレビにも何度も出演されている南裕さんの催眠を録音した音声があります。

この音声では、熟睡に導くための催眠誘導を聞くことができます。

私も試してみたのですが、30分のこの音声を最後まで聞けたことはなく、驚くほど気持ちよく眠りにつくことができ、翌朝の目覚めも良いんです。

興味を持たれた方はぜひ下のリンクを参照してみてください!

Relookアプリについてはこちらを参照してみてください。


ガッツリ宣伝のような形になってしまいましたが、最初は無料で全てのコンテンツをお試しすることができます(2021年2月4日現在)ので、軽い気持ちで一度試してみてもいいかもしれません。


まとめ:催眠の可能性

催眠にまつわる研究論文を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。

専門用語が多く理解しづらい部分もあったかもしれませんが、これまでうさんくさいと思っていた催眠も科学的な研究の対象になっていることに驚いたのではないでしょうか。

まだまだ研究は少なく発展途上ではありますが、催眠の可能性というのは極めて大きいものがあります。

ここ10年ほどで、筋トレブーム、瞑想ブームが起きていると思いますが、催眠ブームが起こる日も近いかもしれませんね。


※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。


引用文献

[1] Raz A, Fan J, Posner MI. Hypnotic suggestion reduces conflict in the human brain. Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Jul 12;102(28):9978-83. doi: 10.1073/pnas.0503064102. Epub 2005 Jun 30. PMID: 15994228; PMCID: PMC1174993.


[2] Jiang H, White MP, Greicius MD, Waelde LC, Spiegel D. Brain Activity and Functional Connectivity Associated with Hypnosis. Cereb Cortex. 2017 Aug 1;27(8):4083-4093. doi: 10.1093/cercor/bhw220. PMID: 27469596; PMCID: PMC6248753.


[3] Amemori K, Graybiel AM. Localized microstimulation of primate pregenual cingulate cortex induces negative decision-making. Nat Neurosci. 2012 May;15(5):776-85. doi: 10.1038/nn.3088. PMID: 22484571; PMCID: PMC3369110.


[4] Cavanagh JF, Frank MJ. Frontal theta as a mechanism for cognitive control. Trends Cogn Sci. 2014 Aug;18(8):414-21. doi: 10.1016/j.tics.2014.04.012. Epub 2014 May 15. PMID: 24835663; PMCID: PMC4112145.


[5] Bryden DW, Johnson EE, Tobia SC, Kashtelyan V, Roesch MR. Attention for learning signals in anterior cingulate cortex. J Neurosci. 2011 Dec 14;31(50):18266-74. doi: 10.1523/JNEUROSCI.4715-11.2011. PMID: 22171031; PMCID: PMC3285822.


[6] Shenhav A, Musslick S, Lieder F, Kool W, Griffiths TL, Cohen JD, Botvinick MM. Toward a Rational and Mechanistic Account of Mental Effort. Annu Rev Neurosci. 2017 Jul 25;40:99-124. doi: 10.1146/annurev-neuro-072116-031526. Epub 2017 Mar 31. PMID: 28375769.