瞑想とシータ波とDMN


瞑想をしていると、脳にはさまざまな変化が起こります。
その代表的なものが、

・DMNの抑制[1]
・シータ波の増加[2]

です。

両者とも多くの研究で確認されており、その変化は確かなものであると言えるでしょう。
いきなりDMNとシータ波というワードが出てきたので、まずはそれらを簡単に説明しておきます。

DMNとは、デフォルトモードネットワークの略です。
一般に、今やっていることと関係ないことを空想していたり、雑念が浮かんでいる時に活動しているとされる脳のネットワークです。
全く覚える必要はありませんが、より具体的には内側前頭前野・後帯状皮質・海馬・角回などといった脳領域からなります。
瞑想をしている時には雑念を鎮めていくため、DMNの活動が抑制されていくと考えられるんですね。

一方のシータ波は脳波の一種です。
シータ波は一般的に眠くなる時などに現れますが、瞑想中のシータ波はFmθといって、脳の前頭葉から現れる少し特異的なシータ波になっています。
前頭葉が強く活動している時にみられるシータ波と考えられていて、その詳しい機能についてはこちらの記事で紹介しています。
以下、Fmθという呼び方で統一していきますので、専門用語が増えてしまいますがここで覚えてしまうと読みやすくなるはずです。

今日の記事では、少し専門的になりますが、DMNとFmθの関係について詳しく解説していきます。
かなり深くまで説明していくので難しいかもしれませんが、これが分かればより脳と瞑想についての理解が深まるはずです。
興味がある方はぜひ最後までお付き合いください。

FmθはDMNを抑制している?


まずこれまでの話を簡単に整理していきましょう。

瞑想ではFmθが増加することと、DMNが抑制されるという話がありました。
ということは、FmθがDMNを抑制する役割があるのだろうか、という疑問が浮かびます。

これについては厳密に検証することは難しいのですが、間接的にこれを検討した研究[3]があります。
2008年に国際心理生理学誌に報告されたこの研究によると、(瞑想していない時でも)FmθとDMNの活動量は逆相関の関係にあるというのです。

簡単に言えば、Fmθが増えているときはDMNの活動が弱く、Fmθが減っているときはDMNの活動が強いということです。
これは、FmθがDMNの活動を抑制している可能性を支持しています。

*ただし、これはあくまでも相関関係であって、因果関係ではないことに注意しておいてください。
相関関係とは、たとえば「交番が多い地域ほど、犯罪が多い」という文章のように単に片方が増えるともう片方も増えるという関係性を示します。
因果関係とは、この例に当てはめると「交番を増やせば、犯罪が増える」という関係性になります。前者が原因で後者が結果という関係のことを指します。
これらは全く別物ですよね。
この例では相関関係は正しいけど、因果関係は正しくないでしょう。
今回紹介した結果も同じで、Fmθが増えてる時にはDMNが抑制されている、は正しいですが、Fmθが増えればDMNが抑制されるという因果関係は不明です。

この因果関係に関して、ニューロフィードバックと呼ばれる手法によってFmθを増やしたところ認知機能が向上したという研究[4,5]も複数あり、これらを合わせるとFmθが因果的に認知機能を促進したり、DMNを抑制している可能性が示されつつあると言えるでしょう。

それでは、Fmθはどのようにこのようなことを実現しているのでしょうか。

シータ波とはそもそも何か



ここからは、より科学の根底に迫っていきましょう。

ここまでで、Fmθはどうも認知機能を促進する役割があるらしいということはわかりました。
でも、どのようにしてそんなことが可能になるのでしょうか。

それを知るために、そもそもシータ波とは何かについて紹介していきます。
新しい概念を知るのは大変ですが、なるべくわかりやすく説明していきましょう。

第一に、脳波脳波といわれても、そもそも脳波が何なのか、ほとんどの人は実はわからないと思います。
何となく脳の波?波動?神秘的な何かなのでは?というようなイメージかもしれません。

脳の中には、ニューロンという細胞がたくさんあります。
1000億個ぐらいあると言われています。
地球上の人間の数が70億人なので、その10倍以上もの数のニューロンがあなたの脳には詰まっています。

そのニューロンたちがつながりあって、私たちはいろいろ考えたり行動したりするんですね。
ところで、ニューロンは何を使って活動しているか分かりますか?

答えは電気です。
電気をパシッと発火させることで、脳は情報のやり取りをしています。
人同士は手紙を使ってやり取りするかもしれませんが、脳は電気を使ってやり取りしているんですね。

この電気のやり取りには、実は不思議な現象があることが知られています。
それは、電気のやり取りが活発なタイミングと、活発じゃないタイミングとが分かれているという現象です。
人間の例でいいかえるなら、手紙を渡したりするのは昼の日が出ているあいだで、夜中の間は手紙のやり取りをしないようなかんじです。

ニューロンも、昼に手紙をやり取りするように電気をやり取りするタイミングがあり、逆に夜中のように電気のやりとりをしないタイミングがあるのです。

ただし、ニューロンと人間には違いがあります。
人間は24時間単位でこのタイミングが繰り返されますが、ニューロンでは1秒間に何度も(速いと100回ほども)このタイミングが切り替わっています。

1秒間に100回だと、目にも止まらぬ速さです。
あなたが普段見るような動画も、気づかないだけで1秒間に60回ほどの速さ切り替わっています。
そのぐらいの速さで、ニューロンのやり取りのタイミングが切り替わっていると言えます。

なぜその現象が起きるのかはわかっていないことも多いのでここでは省略しますが、不思議な現象ではありませんか?

実は、この切り替わりのことを、脳波というのです。
これまで何となく波動っぽいと思っていた脳波も少し理解できたでしょうか。

人間が昼に活動して夜に眠るように、ニューロンも目にも止まらぬ速さで活動を切り替えているんですね。

ここまでが脳波の一般的な説明です。
じゃあシータ波とかアルファ波とかいう名前は何なのかというと、その切り替えの速さのことを示しています。

一秒間に2,3回程度の切り替えの速さだとデルタ波と呼ばれます。
脳波の中ではゆっくりした切り替えですね。

これが4回から7回ぐらいになると、シータ波と呼ばれます。
これが今回説明してきた脳波ですね。
これも脳波の中では比較的ゆっくりしたものです。

次に、
8回から13回ぐらいのものをアルファ波
14回から30回ぐらいのものをベータ波
31回から100回ぐらいのものをガンマ波
と呼びます。

つまり、切り替えの速さの状態によって、脳波の名前が違うんです。
そのなかでもちょっとゆっくりした脳波がシータ波になります。

Fmθのメカニズム


ここまででもちょっと読みこなすのは大変に感じたかもしれませんが、いよいよこの記事も大詰めに差し掛かります。
Fmθの役割について説明していきます。

Fmθは、前頭葉の真ん中のあたりで見られるシータ波のことを指します。
つまり、前頭葉のニューロンの活動が、1秒間に4回から7回ぐらい切り替わっている状態を示すのですね。

ここでもう一つだけ新しい情報を追加します。
それは、シータ波の状態では情報のやり取りがしやすいらしいという情報です[6]。

理由は不明なのですがアルファ波やデルタ波より、シータ波の状態ではなぜか情報のやり取りがしやすいということが示されています。
もう少し丁寧にいうと、脳のAという場所とBという場所でどちらも同時にシータ波のタイミングが揃っていると、それらの間で情報のやり取りがしやすいことが報告されています。

人間の手紙のイメージで言うと、生活リズムが崩れていないA君とBさんのあいだで手紙のやりとりをするのはとても簡単です。
でも、もしBさんが昼夜逆転していたら、A君とBさんの手紙のやり取りは大変です。
A君が昼に手紙を届けてもBさんが寝ていたら受け取れないからです。

こんな感じで、脳のAもBもシータ波のタイミングが揃っていると、情報のやり取りが簡単になるのです。
しかし、それがなぜシータ波なのか、アルファ波やデルタ波ではダメなのかはよくわかっていません。

ただ、人間の例でも仮に1日が30分しかなかったら、手紙のやり取りは結構大変そうです。
30分しかないのに手紙を渡しにいくのはなかなかうまくいかないかもしれません。
逆に1日が長すぎるようなことがあれば、うまくタイミングを合わせて手紙のやり取りができないのかもしれません。

そういった感じで、シータ波ぐらいの活動の切り替えのリズムだと、情報のやり取りしやすいらしいと言う現象が知られています。

さて、かなり皆さんの知らなかった情報をたくさん説明してきました。
おそらく全てを理解して覚え切れた、と言う方はほとんどいないでしょう。
なのでここまでを整理してみます。

・脳波はニューロンの活動の切り替えのこと(人間で言う昼と夜の違いのようなもの)
・その速さが1秒間に4回から7回ぐらいだとシータ波とよばれる
・脳の2箇所で、シータ波のタイミングが揃っていると情報がやりとりしやすい

ということでした。

おそらくここまで詳しく脳波について説明しているブログ記事はどこをみてもないというぐらい詳しく説明してきたので、ここまでついて来られた方は凄いです。
理解し切れなかった方も、いままでよりも脳波の理解が深まっていれば十分です。


それでは最後に、瞑想をするとFmθが増えてDMNが抑制されると考えられるメカニズムをまとめていきましょう。

これまでの説明から考えると、前頭葉とDMNのシータ波が揃っていたとしたら、前頭葉とDMNのあいだで情報のやり取りがやりやすくなるんでしたね。

すると、あなたが「DMNを抑制しよう」と思うと、前頭葉がDMNに対して即座に正確にその情報を伝達することができます。
結果、見事にDMNの活動がうまく抑制されると予想されます。

こういったメカニズムによって、FmθはDMNを抑制したり、認知機能を促進したりしているのだろうと考えられます。

ただし、今回の記事は専門的な話をわかりやすくするため、多少厳密性を書いたことも否めません。
まだまだ仮説の域を出ない部分もあるので、絶対にこの通りだとは言い切れないこともあると言うことはご理解ください。

さいごに


とても専門的な話ですが、少しでも脳波や瞑想の理解が深まっていれば幸いです。
これらを理解すると、瞑想でシータ波が増えるというのはとても凄い現象だと思えるようになります。

ただ目を閉じているように見える瞑想でも、前頭葉のニューロンの活動が最適化され、DMNが抑制されたり認知機能が高まっていく可能性があるのです。

メカニズムがわかると、瞑想をしてみようと言う気になる方もいるかもしれません。
ぜひ、1日5分から瞑想の習慣を取り入れて、脳波を変えていってみてください。


※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。


参考文献

1. Brewer, J.A., Worhunsky, P.D., Gray, J.R., Tang, Y.Y., Weber, J., and Kober, H. (2011). Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 108, 20254–20259.

2. Aftanas, L.I., and Golocheikine, S.A. (2001). Human anterior and frontal midline theta and lower alpha reflect emotionally positive state and internalized attention: High-resolution EEG investigation of meditation. Neurosci. Lett. 310, 57–60.

3. Scheeringa, R., Bastiaansen, M.C.M., Petersson, K.M., Oostenveld, R., Norris, D.G., and Hagoort, P. (2008). Frontal theta EEG activity correlates negatively with the default mode network in resting state. Int. J. Psychophysiol. 67, 242–251.

4. Brandmeyer, T., and Delorme, A. (2020). Closed-Loop Frontal Midlineθ Neurofeedback: A Novel Approach for Training Focused-Attention Meditation. Front. Hum. Neurosci. 14, 1–16.

5. Wang, J.R., and Hsieh, S. (2013). Neurofeedback training improves attention and working memory performance. Clin. Neurophysiol. 124, 2406–2420. 

6. Fell, J., and Axmacher, N. (2011). The role of phase synchronization in memory processes. Nat. Rev. Neurosci. 12, 105–118.