瞑想で脳波が変わる?


ネットで瞑想の効果について調べてみると「瞑想すると〇〇波が増加する」という記事が出てきます。
その脳波が増えるとどうなるのか?と調べれば、ウトウトした状態や注意散漫な状態であるとか、逆に超集中状態でクリエイティブな状態だ、なんて話が出てきたりします。
中には、自分の守護霊と出会うことができる状態だ、なんていう記事もありますね。

なかなかロマンチックな話ですが、果たしてこれらの情報はどこまでが正しく、どこからが間違っているのでしょうか。
今日は、実際に大学院で脳の研究をしている筆者が、脳波と瞑想の正しい関係について紹介していきます。

瞑想をするとFmθが増加する


瞑想をするとどんな脳波が現れるのでしょうか。
それを検討した論文が2001年に報告されています[1]。
この研究では、瞑想の熟達者を16名、比較対象として初心者を11名集めてきて、瞑想中の脳波を計測しました。

瞑想熟達者は、初心者と比べて何が特別だったのでしょうか。
早速ですが結果を見てみると、熟達者は瞑想中に非常に強いシータ波(θ波)を示すことが明らかになりました。

ネットの記事で「瞑想するとθ波が増える」という記事がありますが、ある程度正しいということですね。
「ある程度」というのはどういうことかというと、脳波は現れる領域によって全く意味合いが変わってくるのです。
シータ波が前頭葉で現れたのか、後頭葉で現れたのかによって解釈が違います。

今回のシータ波がどの脳領域で見られたかというと、前頭葉の内側部分でした。
この領域で現れるシータ波には、Fmθという特別な呼称がついています。
Frontal midline thetaの略でFmθです。

ここまでを一旦まとめると、瞑想の熟達者ではFmθと呼ばれる脳波が現れるようになるということになります。
ちなみにこの結果は2018年にBiological Psychology誌に報告された別の研究でも確認されており[2]、信頼のできる結果だと言えそうです。

Fmθの役割


それでは、Fmθにはどんな役割があるのでしょうか。
先端の研究に基づく正しい情報を見ていきましょう。

Fmθは、瞑想をしていないときであっても、以下のようなときに現れることが知られています[3]。

新しいものに出会ったとき
失敗したとき
ワーキングメモリ(短期記憶)課題中*


など・・・
*ワーキングメモリ課題は、数字の列や単語などを少しの間覚えておくというシンプルなものです。この課題のスコアが高いほど、頭の働きがいい(学業成績が高いなど)ということが分かっています。

様々なタイミングに現れるということが分かりますね。
Fmθは、決して何か特別な脳波ではないのです。

そうなると気になるのは、Fmθがそれらの状況下でどんな役割を持っているのか、ということではないでしょうか。
きっと、ワーキングメモリ課題中にも、新しいものに出会ったときにも、失敗したときにも共通して必要なことをFmθはおこなっているのだろうと予測されます。

その共通点とは、少し難しい表現になってしまいますが、実行制御であると考えられています。
実行制御とは、習慣的な行動や衝動的な反応を抑える能力のことなのですが、そう言われても分かりづらい表現なので、いくつか具体例を考えてみましょう。

上に、新しいにものに出会ったときFmθが現れると書きました。
例えばあなたが、スマホに見たことのない新しいアプリをいれたとすると、Fmθが現れると考えられます。
そうすると、初めてみるアプリなので今まで既に知っている操作方法では扱うことができません。
なので、そのような今までの知識(習慣的な行動)を抑え、新しい操作方法を学ぶ必要があります。
この過程に、Fmθが重要となると考えられます。

他にも、何かに失敗したときには、それまでの行動を変えて新しい適切な行動を取り入れる必要があります。
ワーキングメモリ課題中には、衝動的な行動を抑え、記憶をていねいに保持しておく必要があります。
これらの状況下においても、Fmθが現れます。

これらに共通することが、習慣的な行動や衝動的な反応を抑える実行制御、ということになります。
なんとなくイメージが湧いたでしょうか。
分かりづらければ、ヒトの理性のようなものと思ってしまっても問題ないでしょう。

整理するとFmθは、習慣的な行動や衝動的な反応を抑える実行制御を担っている、と考えられます。

実際これを支持する研究は膨大にあり、例えばFmθが強い人ほどワーキングメモリ課題の成績が高い、などという関係性が明らかになっています[4]。

以上で感じていただけたかもしれませんが、瞑想熟達者に現れるFmθは何も特別な脳波ではなく、私たちの実行制御を担う脳波なんですね。

瞑想とFmθの関係


それでは、瞑想熟達者が瞑想中に強いFmθを示すという事実は何を意味しているのでしょうか。

それは、瞑想熟達者は瞑想中に頭をフル回転させて実行制御を行なっているという事実だと考えられます。
一見すれば、瞑想をしている人はただ座っているだけのように見えてしまいますよね。
でも、実は脳の中では失敗したときや新しいものと出会ったときのように、実行制御をフルに使って瞑想状態に入っている、ということが言えるでしょう。

これは驚異的なことで、ただ座って目を瞑っている、しかも瞑想をして頭を空っぽにしているはずなのに、脳ではフル回転しているときのようにFmθが現れています。
ちょっと想像もつかない状態ではないでしょうか。
瞑想を極めると、そんな境地にたどり着くことができるのかもしれません。

瞑想を始めてみる


ちなみに、瞑想の熟達者と言えば何年間も厳しい修行を積み重ねていますが、初心者ではFmθが現れないというわけではありません。
[2]の研究によれば、初心者であっても安静時よりは瞑想中の方が強くFmθが現れることが確認されています。
熟達者では、その強さが圧倒的に違う、ということなんですね。
なので、あなたがこれから瞑想を始めれば、少しずつとはいえ実行制御を鍛えていくことができると考えられます。

瞑想やマインドフルネスを始めてみたい、でもやり方がわからずうまくできるか不安、という方は、ぜひRelookのスマホアプリで瞑想を取り入れてみてください。
瞑想のやり方をガイドするスマホアプリによって確実な効果が得られるということは、多くの研究でも示されています[5]。

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まとめ


瞑想をしていると、前頭葉内側部のシータ波、Fmθが現れるということが分かりました。
そのFmθは実行制御と言って、習慣的な行動や衝動的な反応を抑えるという能力を司るということも分かりました。
瞑想はただ座って目を瞑っているだけではなく、実は頭がフル回転しているような不思議な状態なのかもしれません。

今回は紹介しませんでしたが他にも瞑想をしていると強く現れる脳波はあります。
今後それらの脳波についても紹介していきますので、ぜひブックマークして更新を楽しみにして下さい。


※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。


引用文献

[1] Aftanas, L.I., and Golocheikine, S.A. (2001). Human anterior and frontal midline theta and lower alpha reflect emotionally positive state and internalized attention: High-resolution EEG investigation of meditation. Neurosci. Lett. 310, 57–60.

[2] Kakumanu, R.J., Nair, A.K., Venugopal, R., Sasidharan, A., Ghosh, P.K., John, J.P., Mehrotra, S., Panth, R., and Kutty, B.M. (2018). Dissociating meditation proficiency and experience dependent EEG changes during traditional Vipassana meditation practice. Biol. Psychol. 135, 65–75. Available at: https://doi.org/10.1016/j.biopsycho.2018.03.004.

[3] Cavanagh, J.F., and Frank, M.J. (2014). Frontal theta as a mechanism for cognitive control. Trends Cogn. Sci. 18, 414–421.

[4] Pavlov, Y.G., and Kotchoubey, B. (2020). The electrophysiological underpinnings of variation in verbal working memory capacity. Sci. Rep. 10, 1–9.

[5] Linardon, J., Cuijpers, P., Carlbring, P., Messer, M., and Fuller-Tyszkiewicz, M. (2019). The efficacy of app-supported smartphone interventions for mental health problems: a meta-analysis of randomized controlled trials. World Psychiatry 18, 325–336.