マインドフルネス瞑想で脳波を操るのが上手くなる?

2020年に驚くべき研究が報告されました[1]。

マインドフルネス瞑想をすると自分の脳波を操るのが上手くなるのです。

 

この論文によれば、マインドフルネス瞑想を継続した人はそうでない人に比べ、脳波によってコンピュータを操作するBGI(Brain-Machine Interface)を制御が上手くなったことが示されています。

 

瞑想で脳波を操るのが上手くなるなんて、背景にはどんなメカニズムがあるのでしょうか。

まずは、この研究の主題となるBCIとは何か解説していきましょう。

 

BCIとは何か

BCIとはBrain-Machine Interfaceの略です。

日本語で脳と機械をつなぐもの、と言うような意味になります。

と言われても分かりませんよね。

 

少し噛み砕くと、

あなたが「機械よ動け」と念じると、その脳波を検出して実際に機械が動くようなシステムのことです。

 

まだイメージがつきづらいかもしれないので、もう少し具体的にどんな場面で使われるのか説明していきましょう。

 

BCIの例① 手の動かない患者に機械の手を取りつける

病気で手が動かなくなってしまったり、そもそも切断して手を失ってしまった人がいます。

そういう人たちに、自由に動かせる手を作ろうという研究者たちがいます。

 

彼らは、患者に脳波を計測する装置を取り付け、機械の手につなぎます。

患者が手を動かそうと念じると、その脳波を脳波計が検知します。

その結果、機械の手が動く。

 

この技術はまだまだ発展途上ですが、着実に進化を遂げています。

つい先日、これを応用して両手をうまく使い自分で食事をすることに成功した患者が報告されました。

(参考:https://www.jhuapl.edu/PressRelease/201210-APL-advanced-prosthetic-limb-brain-control-Chmielewski-feeds-himself)

 

BCIの例② 脳卒中患者のリハビリを促進する

これと似て非なる研究があります。

この研究では、先ほどの例と同じように脳卒中で手が動かなくなった患者にBCIを取り付けます。

 

患者が手を動かそうとする脳波が検出されると、機械の手が動きます。

例①との違いは、機械の手が動かすのは患者自身の手だということです。

 

機械の手が自分の手を動かすのをサポートする感じです。

患者が手を動かそうとするけど、どうしても動かない。

それを機械の手がサポートします。

 

この方法は、先ほどの例と違った利点があります。

 

それは、第一に「自分の手を動かしている」と言う感覚が得られること。

やはり自分の意思で、自分の手が動くというのは嬉しいように思います。

 

そして第二に「リハビリ効果が促進される」ということです。

このメカニズムは少し難しいので詳細は省きますが、「脳が手を動かす信号」と、「手が動いたと言う実際の筋肉の反応」が両方とも同時に現れると、不思議なことに脳と筋肉の結合が強化されるのです。

これを専門用語でヘッブ則といいます。

 

つまり、この方法でひたすらBCIを動かし続けていると、だんだんと失われた脳と筋肉の結合が回復されていくのです。

それにより、脳卒中患者の運動機能が回復することが期待されています。

 

これは現在、慶應義塾大学理工学部のグループなどが研究を推進しています。

(参考:https://www.st.keio.ac.jp/education/kyurizukai/01_ushiba.html

 

BCIの例③ ゲーム

他にも、将来的な期待の一つとしてゲームに利用されることも考えられます。

今私たちはコントローラーを手で操作してゲームをプレイします。

でもこれって、よく考えると不自然ではありますよね。

 

ゲーム内でキャラクターが剣を振るためにAボタンを押すのが当たり前ですが、もし脳の中であなたが剣を振るイメージをして、その結果ゲーム内のキャラクターが本当に剣を振ったとしたら、もっと楽しいかもしれません。

 

いまよりももっと没入感の高いゲームがうみだせるかもしれませんよね。

これはアニメSAO(ソードアートオンライン)の世界です。

研究者の中には、こう言う世界を本気で実現したいと考えている人もいます。

 

研究内容紹介

さて、BCIとは何かについては少し理解できたでしょうか。

要するに自分の脳波をコントローラーのようにして機械やゲームを操ろうというのがBCIなんですね。

それでは、今回の研究紹介に移ります。

 

この研究は、2020年にCerebral Cortexという雑誌に報告されました[1]。

神経科学の世界でとても権威ある雑誌の一つであり、期待できそうです。

62名の参加者を集め、うち33名にはマインドフルネス瞑想の訓練を8週間行なってもらいました。

 

今回行った瞑想の訓練はMBSR(Mindfulness-Based Stress Reduction)と呼ばれる、スタンダードなものです。

具体的には、毎週1回3時間弱の講座を受講、毎日自主的に1時間の瞑想を実施、さらに期間中一度だけ7.5時間のリトリート(瞑想のセッション)を実施します。

かなり本格的なものですね。

 

そして、その結果を評価するために簡単な「BCIゲーム」を実施してもらいました。

このゲームは脳波の中でもアルファ波という脳波をうまくコントロールすることで、画面上のボールを上下左右に移動させるというシンプルなものです。

 

結果、マインドフルネス瞑想を訓練したグループで統計的有意にBCIゲームのスコアが向上しました。

著作権の関係上載せられませんが、実際の図を見てみるとその差は明確です。

これだけだとまだ信頼できないという人もいるかもしれません。

 

しかし、さらに興味深いことに、自宅での訓練時間が長かった人ほど脳波をコントロールする能力が高くなっていることも示されました。

ここまで示されると、本当に瞑想で脳波をコントロールするのがうまくなるんだなぁと納得できる人も多いのではないでしょうか。

 

想定されるメカニズム

それでは、なぜマインドフルネス瞑想の訓練によって脳波をコントロールするBCIの制御がうまくなったのでしょうか。

そのヒントは、マインドフルネスの極意にあると考えられます。

 

マインドフルネスの極意とは「気づき」です。

呼吸に意識を向け、唇と空気が触れる感覚に気づく。
意識がそれ雑念が浮かんでいることに気づく。
足が痺れて動きたい自分に気づく。

このようにマインドフルネスでは「気づく」ということが重要になります。

 

その過程で気づきの力が鍛えられていくのでしょう。

その気づきの力は、言い換えれば「自分の脳の変化に敏感になる」ということでもあります。

 

雑念が浮かんだという脳の変化に気づく、つまり敏感になることで、気づきの力が発揮される。

これは脳波をコントロールする上でも有用に働くはずです。

 

自分の脳がどのような状態にあるのかに気づくことで、脳波を精緻にコントロールできるようになる。

それによって、脳波BCIゲームをうまくプレイできるようになるのかもしれません。

 

応用可能性


それでは、マインドフルネス瞑想で脳波をコントロールするのがうまくなるということは、何かの役に立つのでしょうか。

この点について考えていきましょう。

 

脳波によって機械をコントロールするBCIは、少しずつですが医療の世界に浸透し始めています。

その際にネックとなるのが「脳波をコントロールするのが上手いか下手か」ということです。

 

そもそも脳波をコントロールするのが下手な人というのは実際にいて、そういう人たちは、医療用のBCIもうまく使いこなすことができません。

BCIをうまく使いこなすためにも、マインドフルネス瞑想が有効である可能性が大いにあるのです。

 

医療でなくとも、脳波をコントロールする力というのは日常生活にも生きる可能性があります。

というのも、脳波をコントロールするというのは言い換えれば脳状態をコントロールすることだからです。

 

これ自体は、日常生活のあらゆる場面で必要になります。

例えば、つい電車で人にキレそうになったときには、その感情を一時的に抑える(=脳状態を制御する)必要があります。

そのような場面で、脳状態をうまくコントロールする力は、瞑想によって鍛えられることが報告されています[2]。

 

そのため、直接BCIを使わない人であっても、脳波をコントロールする能力は有効に働くのではないかと筆者は考えています。

 

まとめ

マインドフルネス瞑想のトレーニングによって、脳波BCIをコントロールする能力が上がるという研究を紹介しました。

これは科学技術が発展する将来的に役に立つだけでなく、あなたが日常生活を送るときに脳状態をうまく制御する上でも役に立つかもしれません。

 

今回の研究で実施したのは8週間の本格的なトレーニングでしたが、実際には10分程度の短時間での瞑想でも様々な効果が得られることが報告されています[3]。

ぜひ日常にマインドフルネスを取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。


当記事を読んだ方におすすめの記事はこちら↓
論文レポート:スマホ瞑想アプリの効果が検証される

 

参考文献

1. Stieger, J.R., Engel, S., Jiang, H., Cline, C.C., Kreitzer, M.J., and He, B. (2021). Mindfulness Improves Brain-Computer Interface Performance by Increasing Control Over Neural Activity in the Alpha Band. Cereb. Cortex 31, 426–438.

2. Allen, M., Dietz, M., Blair, K.S., van Beek, M., Rees, G., Vestergaard-Poulsen, P., Lutz, A., and Roepstorff, A. (2012). Cognitive-affective neural plasticity following active-controlled mindfulness intervention. J. Neurosci. 32, 15601–15610.

3. Xu, M., Purdon, C., Seli, P., and Smilek, D. (2017). Mindfulness and mind wandering: The protective effects of brief meditation in anxious individuals. Conscious. Cogn. 51, 157–165.