睡眠不足で食欲が増すのはなぜ?


皆さんは、睡眠不足の時についカロリーの高いものが食べたくなってしまうことはありませんか?
ダイエットをしているのに、課題や仕事に追われてつい甘いものを食べ過ぎてしまった経験のある人もいるかもしれません。

なぜこのような理不尽なことが起きてしまうのでしょうか。
多くの人が経験したことのあるこの現象を、脳科学の側面から明らかにした研究があります。
今日は、その興味深い論文を紹介していきましょう。


睡眠不足が食欲をブーストしてしまう脳科学的メカニズム


その研究は、2013年にNature Communications誌に報告されました[1]。
Nature Communications誌とは、世界最高の自然科学誌「ネイチャー」の姉妹誌であり、掲載されるためには非常に洗練され、科学的に重要な研究を行わなくてはなりません。
その意味で、これから紹介する論文のインパクトの大きさが伺えます。

早速ですが、研究内容を紹介していきます。
著者らの目的はまさに「睡眠不足ではなぜ食欲が増してしまうのか?」ということでした。

この目的を明らかにするために、とてもストレートな実験手法を取っています。
つまり、実際に人々を睡眠不足の状態にさせ、その際の脳活動を記録したのです。

イメージが湧きやすいように、より具体的に書いておきましょう。
実験参加者は全部で23名。
彼らは2度実験に参加します。

1回は、通常通り8時間ほどの睡眠をきっちり取ったうえで実験を受ける
別の1回は、24時間起き続けている状態で実験を受ける

という2条件で実験に参加します。
ちなみにですが、この順番は参加者ごとにランダムとなっており順序による影響を排除しています。
要するに、きちんとした実験手法にのっとって行われているんですね。

彼らは、上記どちらかの状況下で、fMRIという脳スキャナーの中に入ります。
スキャナーの中で彼らはポテトチップスなどの高カロリーな食べ物の画像を見せられ、その「食べたい度」を評価していきます。

「めちゃくちゃ食べたい!」から、「全く食べたくない」の4段階評価です。

実験の概要は以上となります。
内容はつかめたでしょうか。
平たくまとめておくと、要するに睡眠不足のときに食べ物をみると脳はどんな反応をするのか、実験で調べたということです。


実験結果


結果をまとめていきましょう。

結果1:食欲の増加

大前提として、睡眠不足で食欲が増加するのは本当なのでしょうか。
研究グループはこの点をアンケートを用いて調査しています。
結果、睡眠不足のグループでは「ハイカロリーな食べ物に対して」食欲が統計的有意に増加していました。
また、眠気が強い人ほど、カロリーの高い食べ物を強く渇望していることが示されています。
これにより、睡眠不足は本当に(特に高カロリーな食べ物に対して)食欲を増加させるということが確認できました。
それでは、これはどんな脳活動の変化によるのでしょうか。

結果2:前頭葉の活動低下

まず、睡眠不足のグループではACC(前帯状皮質)をはじめとする前頭葉領域の脳活動が大幅に低下していました。
簡単に言えば、前頭葉は私たちの理性を司るとされている脳領域です。
その前頭葉が活動を低下させたということは、それだけ食欲を抑えづらい状況になっていたのかもしれません。

結果3:扁桃体の活動増加

第二に、睡眠不足のグループでは大幅に扁桃体の活動が増加していました。
扁桃体とは、主にネガティブな感情を司る脳領域です。
嫌なことが起こると、扁桃体の活動が暴走して、前頭葉の活動を低下させるとされています。
それによって、私たちは簡単に理性を失ってしまうのです。
この結果、食欲が抑えられないようになると考えられます。


これがこの研究の主な結果となります。
なぜ私たちは睡眠不足になると食欲を抑えられなくなってしまうのか。
それは理性を司る前頭葉の活動が低下し、感情を司る扁桃体が暴走してしまうことによると考えられます。
ここまでの一連のメカニズムを明らかにした、とても意義深い研究であると言えます。


扁桃体と前頭葉の関係


この記事では、さらっと前頭葉と扁桃体の話を書きましたが、これら二つは実は切っても切れない深い関係にあります。
この二つの脳領域は私たちの行動を理解する上で、とても重要になるので、ここで少し補足しておきましょう。

前頭葉と扁桃体はどのような関係性にあるのか。
それは平たくいうと、綱引きのような関係にあるといえます。
つまり、理性を司る前頭葉が活動すれば、本能を司る扁桃体を抑えられる。
逆に本能を司る扁桃体が活動すれば、理性を司る前頭葉が活動を停止してしまう。

このようなライバルのような関係にあると考えられています。
とはいえ、言葉だけで言ってもイメージしづらいかもしれません。
どんな時に前頭葉が活動していて、どんな時に扁桃体が暴走しているのでしょうか。
わかりやすい例を挙げてみましょう。

前頭葉がきっちり活動している時というのは、例えば勉強や仕事に集中できている時です。
とても集中していて、いわゆるフロー状態に入っている時には、前頭葉が強く活動していることが示唆されています[2]。

一方、扁桃体が暴走して前頭葉が活動を低下しているのはどんな時か。
それは、試験前やプレゼンテーションの前、あるいはジェットコースターに乗る前に緊張している時が挙げられます。
このようなとき、みなさんは手が震えてきたり、ちょっとしたパニックのような感じでうまくやれるか不安になりませんか?
これは、扁桃体が強く活動し、前頭葉がその活動をうまく抑えられていない時であると考えられます。

この例からも想像がつくように、前頭葉は理性を、扁桃体は本能的な感情(特にネガティブ感情)を司っていると考えられています。
そして、睡眠不足では前頭葉が活動低下、扁桃体が活動増加してしまうため、食欲が抑えられなくなると考えられるのです。


前頭葉を鍛える方法


ここまで読んできたあなたは、このような感想を持つかもしれません。
「どうにかして前頭葉を鍛える方法はないだろうか。
もしあれば、食欲をうまくコントロールできるのに」と。

実はそのための有力な方法があります。
それが瞑想です。

このサイトの他の記事を読んでいただけている方はもう既に実践されているかもしれませんが、瞑想は前頭葉を鍛えるとても有望な方法です。
実際、多くの研究により瞑想中に前頭葉が活動を増加したり、また長期間瞑想を継続することにより前頭葉の体積が増加することなどが報告されています[3]。

詳しくは、筆者が書いた他の記事がありますので是非そちらもご覧いただければと思います。


まとめ


少し話がそれましたが、この記事では睡眠不足で食欲が抑えられなくなる脳科学的メカニズムについて述べてきました。
睡眠不足では、理性を司る前頭葉が活動低下し、本能を司る扁桃体が活動増加するのでしたね。
それによって、私たちは食欲という本能を抑えられなくなってしまうと考えられます。

これを防ぐためには、当然ですがまず第一に睡眠をきっちりとることが重要です。
それに加えて、前頭葉を鍛える瞑想が有効かもしれません。
Relookのアプリでは簡単に瞑想を始めるお手伝いができますので、興味のある方はぜひ一度使ってみてはいかがでしょうか。

※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。


参考文献

1. Greer, S.M., Goldstein, A.N., and Walker, M.P. (2013). The impact of sleep deprivation on food desire in the human brain. Nat. Commun. 4, 1–7.

2. Yoshida, K., Sawamura, D., Inagaki, Y., Ogawa, K., Ikoma, K., and Sakai, S. (2014). Brain activity during the flow experience: A functional near-infrared spectroscopy study. Neurosci. Lett. 573, 30–34. Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.neulet.2014.05.011.

3. Fox, K.C.R., Nijeboer, S., Dixon, M.L., Floman, J.L., Ellamil, M., Rumak, S.P., Sedlmeier, P., and Christoff, K. (2014). Is meditation associated with altered brain structure? A systematic review and meta-analysis of morphometric neuroimaging in meditation practitioners. Neurosci. Biobehav. Rev. 43, 48–73. Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.neubiorev.2014.03.016.