不安になりやすい人の脳科学的メカニズム

本当は結構めぐまれているはずなのに、なぜか漠然と不安になってしまう

彼氏・彼女とうまくやっているけど、返事が少しそっけなくて不安になってしまう

それなりの会社に就職したけど、いつまでやっていけるか不安に感じる

そんなことはありませんか?


実は、世の中には不安になりやすい人とそうでもない人がいます。

あなたはどちらでしょうか。


もし、不安になりやすい人だった場合は、ただ生活するだけでもしんどくて、死んでしまった方がマシだと思ってしまうこともあるかもしれません。

どうしてこんなに不安に感じてしまうのでしょうか。


今日は、不安になりやすい人の脳科学的メカニズムについて解説します。

脳科学的メカニズムなんて知っても何の役にも立たないと思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

人は、メカニズムを知ればそれを客観視できるようになるものだからです。


つい不安になってしまった時も「いま脳の中で⚪︎⚪︎が起きているんだな」と分かる。

それだけでも自分を客観視できて不安が少しずつ和らいでいきます。


それに加えて、不安を軽くする方法が、実は脳科学的に発見されてきています。

この記事の後半では、その不安を軽くする方法について説明していきますので、ぜひ読んでみてください。


不安になりやすい人は無意識に不安を処理している

不安になりやすい人はどんな脳の特徴があるのか。

この興味深い疑問に答えを出した論文が2004年に報告されました[1]。


この論文では、ある独創的な実験をおこなうことでこの疑問を検討しました。

その実験とは、参加者に対して「気づかないレベルで一瞬だけ」怖い画像をみせるというものです。


変な実験だと思いませんか?

どんなに怖い画像を見せられたとしても、それに気づかないぐらい一瞬だったら何も感じるはずがありません。

そんなことをしても、何もわからないように思われます。


ところが、結果を見て私は驚きました。

確かに実験に参加した人たちは、一瞬だけみせられた怖い画像に気付くことはありませんでした。

それにも関わらず、不安になりやすい人は怖い画像をみせられたあとに不安を処理する脳領域(扁桃体といいます)が活動していたのです。


「怖い画像を見た」と気づいてすらいないのに、脳は不安を処理している

不安になりやすい人の脳ではそんなことが起きているのです。


あなたも、もし不安になりやすいのだとしたら、日常生活のなかであらゆる不安のもとを、無意識に感じ取ってしまっているのかもしれません。


恋人の表情が少し曇っている。

テレビのニュースで新型コロナウイルスの感染拡大が報じられている。

ネットで芸能人に対して攻撃的な書き込みをしている人がいる。


これらの情報が流れてくると、それに気づかなかったとしても、あなたの脳の扁桃体が無意識に活動を高めます。

そして、あなたの不安はどんどん蓄積されていくのでしょう。


これが、不安になりやすい人の脳科学的メカニズムです。


ちなみにこの結果は、2020年に報告された別の研究でも確かめられています[2]。

先ほどの論文では実験参加者が17名とやや少なかったのですが、2020年の論文では107名を対象とした大規模なものであり、不安になりやすい人が無意識に扁桃体を活動させやすいという結果は間違いないものと言えそうです。


不安になりやすい人は扁桃体とACCの結合性が強い

ここまで、不安になりやすい人は、気づかないレベルで怖いものをみたときにも扁桃体を活動させてしまうということを説明してきました。

それでは、あなたの扁桃体が無意識に不安を処理してしまうと、何が起こるのでしょうか。

ただ不安になっておしまいなのでしょうか。


実はもっと厄介なことが起きてしまう可能性があります。

こちらも脳科学の論文を紹介しながら解説していきましょう。


2013年に、Cortex誌という有力誌に報告された論文があります[3]。

この研究でも、不安になりやすい人の脳の特徴を検討しました。


さっそく結果を書くと「不安になりやすい人は扁桃体とACCの結合性が強い」ということがわかりました。

なんて急に言われてもよくわからないでしょう。


扁桃体?ACC?結合性?

わかりづらい用語がいくつか出てきてしまったので説明していきます。


まず、扁桃体は不安を処理する脳領域でした。

さきほどの論文では、不安になりやすい人は無意識に扁桃体が活動しやすいんでしたね。


次に、ACCとは前頭葉の奥にある脳領域です。

ひとことでいえば、ACCは「理性をつかさどる領域」になります。

ACCが活動することで人間は仕事をしたり、欲しいものを我慢したりといった感じで、理性を発揮することができます。


そして結合性はそのまま「つながりの強さ」を意味します。


ここで先ほどの結果を思い出してみましょう。

不安になりやすい人は扁桃体とACCの結合性が強いんでしたね。


不安をつかさどる扁桃体と、理性をつかさどるACCが強くつながっている。


そうすると何が起こると考えられるか。

それは、怖いものを見たときに扁桃体が活動すると、理性をつかさどるACCがジャックされてしまうということです。


あなたが不安になったときのことを思い出してみてください。


ついスマホを触り続けてしまう

つい甘いものを食べ続けてしまう

やらないといけないことを放置してしまう


こんなふうに、理性のブレーキが効かなくなってしまうことはありませんか?


これは、無意識に不安をたくさん処理してしまい、理性をつかさどるACCがジャックされてしまったことによるのかもしれません。

不安を感じやすい人の脳ではこんなことが起きているんですね。


不安の改善方法1:認知行動療法

では気になるのが、どうすればこのような不安を改善することができるのか、ではないでしょうか。

そのとき重要になるキーワードが「気づき」です。


ここまで述べてきた不安のメカニズムで、これらが全て「無意識」なものであることに気づきましたか?

怖いものを見て扁桃体が活動してしまうのも無意識

それによってACCがジャックされてしまうのも無意識

でしたよね。

(無意識に)気づかないレベルで怖いものをみてしまっても、不安を感じてしまうのです。


すごく大事なことなのですが、あらゆるものごとは、無意識のままではなかなか変化しません。

逆に、それに「気づく」ことによって初めてそれを変化させることができます。


何のことやらと思うかもしれませんが、次のように考えてみてはどうでしょうか。

例えばあなたが「速く走れるようになりたい」と思っているとしましょう。


ただがむしゃらに走り続けていても、世界トップレベルのランナーにはなれないでしょう。

でも、もしあなたが手の振り方に問題があると気づいたとしましょう。

すると、あなたは手の振り方を変えてみることでもっと速く走ることができるようになります。


これが「気づき」の力です。

気づかなければずっと変わりませんが、気づくことであらゆるものを改善することができます


元の話に戻しましょう。

あなた自身の不安の原因に気づくことで不安を改善できるかもしれない。

これを利用した治療法が「認知行動療法」と呼ばれるものです。

漢字が多く難しそうですが、じつはそれほど複雑なものではありません。


認知行動療法は、不安やうつなど精神的な問題を改善するためによく用いられているカウンセリングのような治療法です。

カウンセリングと聞くと効果があるのか不安に感じる人もいるかもしれませんが、その効果は様々な研究で折り紙付きです。


ここで認知行動療法の細かい部分まで説明すると長くなってしまいますので、そのエッセンスを説明しましょう。

認知行動療法のエッセンスとは、不安の原因に「気づく」ことです。


例えば「なぜ私はプレゼンをする時に不安を感じてしまうんだろう?」

という疑問に対して「プレゼンに失敗したら嫌われると思っているのかもしれない」

などと、自分の不安が生まれる原因に気づいていくのです。


それを繰り返すことで、数週間から数ヶ月程度で効果が見られるようになります。


そんな簡単なんて信じられない、と思うかもしれませんが、脳科学的な裏付けもあります。


例えば2020年に報告された研究によれば、認知行動療法をうけた患者は、前頭葉と扁桃体の結合性が弱まることによって不安が改善することを示しています[4]。

認知行動療法によって、脳の社長である前頭葉が、不安を生む扁桃体の活動をうまく制御できるようになるんですね。


ということで、不安になりやすい性質を改善するためには認知行動療法が有効だということがわかってきました。

ただ、認知行動療法をするためには専門家にお願いをする必要がありハードルが高いかもしれません。

そこでもう一つ、すぐにでも実践できる方法を紹介していきましょう。


不安の改善方法2:マインドフルネス

さきほど、不安の改善には「気づき」が重要だということを書きましたね。

気づきを生むために有効な方法があります。

それがマインドフルネスです。


マインドフルネスとは、瞑想などを通じて普段気づかないものに意識を向ける技術のことです。

例えば瞑想をするときには、今まさに自分の頭の中で浮かんでいることに気づきます。

食事瞑想という手法では、食事をしているときに食べているものに全精神を傾け、その味や食感に気づきます。


これらの訓練を積むことで、あらゆるものに気づく力が身につきます。

これによって不安が改善できる可能性があるのです。


もちろん、この記事で紹介するからにはこれらのマインドフルネスの理論は研究によって裏付けられています。

例えば2019年に報告されたメタ分析(もっとも信頼性が高いとされる研究手法)の論文では、スマホでマインドフルネスアプリを継続的に利用した場合、不安やうつ症状が統計的に有意に改善したことを報告しています[5]。


また脳科学的にも、マインドフルネスによって前頭葉が成長し不安をうまく制御する力が身につくことが繰り返し確かめられています[6]。


上記の認知行動療法は少しハードルが高いという方もいるかもしれませんが、スマホアプリでマインドフルネスをするだけで不安が改善できるのであれば、試しにやってみてもいいかもしれません。


手前味噌ですが、私たちが提供しているRelookのアプリではマインドフルネスが気軽に楽しく継続できるように作られていますので、ぜひ一度お試しいただけると嬉しいです。

Relookアプリについてはこちらを参照してみてください。


まとめ

不安になりやすい人の脳科学的メカニズムと、それを改善する方法について書いてきましたが、いかがだったでしょうか。

不安になってしまう原因は「無意識に」怖いものを受け取って扁桃体が活動してしまうことでした。

そして、それを改善するためには自分の不安の原因に「気づく」ことでした。

そのための有効な手法が認知行動療法やマインドフルネスでしたね。

脳科学の発展によって、いろいろなことがわかってきて、いろいろな問題が改善できる時代になりました。

その発展の恩恵をぜひ利用して、少しでも不安にとらわれない生活をあなたが送っていけるようになれば嬉しく思います。


※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。


参考文献

[1] Etkin A, Klemenhagen KC, Dudman JT, Rogan MT, Hen R, Kandel ER, Hirsch J. Individual differences in trait anxiety predict the response of the basolateral amygdala to unconsciously processed fearful faces. Neuron. 2004 Dec 16;44(6):1043-55. doi: 10.1016/j.neuron.2004.12.006. PMID: 15603746.


[2] Günther V, Hußlack A, Weil AS, Bujanow A, Henkelmann J, Kersting A, Quirin M, Hoffmann KT, Egloff B, Lobsien D, Suslow T. Individual differences in anxiety and automatic amygdala response to fearful faces: A replication and extension of Etkin et al. (2004). Neuroimage Clin. 2020 Sep 18;28:102441. doi: 10.1016/j.nicl.2020.102441. Epub ahead of print. PMID: 32980596; PMCID: PMC7522800.


[3] Carlson JM, Cha J, Mujica-Parodi LR. Functional and structural amygdala – anterior cingulate connectivity correlates with attentional bias to masked fearful faces. Cortex. 2013 Oct;49(9):2595-600. doi: 10.1016/j.cortex.2013.07.008. Epub 2013 Jul 20. PMID: 23954317.


[4] Sandman CF, Young KS, Burklund LJ, Saxbe DE, Lieberman MD, Craske MG. Changes in functional connectivity with cognitive behavioral therapy for social anxiety disorder predict outcomes at follow-up. Behav Res Ther. 2020 Jun;129:103612. doi: 10.1016/j.brat.2020.103612. Epub 2020 Mar 29. PMID: 32276238; PMCID: PMC7329578.


[5] Linardon J, Cuijpers P, Carlbring P, Messer M, Fuller-Tyszkiewicz M. The efficacy of app-supported smartphone interventions for mental health problems: a meta-analysis of randomized controlled trials. World Psychiatry. 2019 Oct;18(3):325-336. doi: 10.1002/wps.20673. PMID: 31496095; PMCID: PMC6732686.


[6] Allen M, Dietz M, Blair KS, van Beek M, Rees G, Vestergaard-Poulsen P, Lutz A, Roepstorff A. Cognitive-affective neural plasticity following active-controlled mindfulness intervention. J Neurosci. 2012 Oct 31;32(44):15601-10. doi: 10.1523/JNEUROSCI.2957-12.2012. PMID: 23115195; PMCID: PMC4569704.