あなたはマインドフルネスが持つ効果をどの程度知っているでしょうか?
マインドフルネスや瞑想には数多くの効果があり、その種類は幸福感の向上や不安の低下など生活に深く関わる精神的な効果から、集中力の増強など仕事に役立つ効果まで様々です。
そのためGoogleなどの有名企業やイチローなどの有名人・アスリートがこぞってマインドフルネス瞑想を習慣にしています。
このように普段の生活に様々な恩恵をもたらしてくれるマインドフルネスですが、医療の現場にも効果が期待されていることはご存知でしょうか?
今回はそんなマインドフルネスの医療応用についてご紹介したいと思います。
目次
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)とは?
今回ご紹介するマインドフルネスの医療応用はマインドフルネスストレス低減法(Mindfulness-Based Stress Reduction)、略してMBSRと呼ばれるものです。
よく似たものにMBCTというものがありますが、これとの違いは後ほど解説します。
このMBSRは、慢性疼痛などの慢性的な症状に有効な医療で、ジョン・カバット・ジン博士によって1976年頃に確立されました。
元々、それまでの治療法で効果のなかった慢性疾患に対してマインドフルネスが症状や気分を和らげてくれることをカバット・ジン博士が発見しました。
その発見を元に、1979年にマサチューセッツ医療センターの医療サービスとして打ち出されたものが今日のMBSRの基礎となっています。
それからおよそ40年の間、MBSRに関して研究が進められ、現在では慢性疼痛(慢性的な痛み)に加えて疾患に伴う不安感やストレス、うつ病などの改善に有効であることが知られています。
ちなみにMBSRの考案者であるカバット・ジン博士はもともと医者ではなくて、生物学の研究者でした。
学生時代の授業で瞑想に出会い、それから日本の禅やヴィパッサナー瞑想の合宿などを経て次第に自身も瞑想を指導する立場になり、そうした経験を医療に還元したのが先ほど挙げたマサチューセッツ医療センターのサービスでした。
その医療サービスは簡単にいうとマインドフルネスの教育プログラムで、マインドフルネスを通じて疾患に伴う痛みやストレスに対応していく力を養うものです。
そのサービスが後にMBSRと名付けられ、その内容も8週間のマインドフルネス教育プログラムとして統一されていきました。
現在でもこのサービスは継続していて、マサチューセッツ州の本拠地を含めて各国の医療機関で体験できます。
日本でも東京マインドフルネスセンターやMBSR研究会などがMBSRの体験プログラムを実施していて、2021年2月現在はオンラインでも受講可能となっています。
MBSRの詳しい受講方法はこの記事の最後にまとめます。
マインドフルネス認知療法(MBCT)との違い
大まかにMBSRについてご説明してきましたが、これとよく似た名前のものにマインドフルネス認知療法(Mindfulness-Based Cognitive Therapy)、略してMBCTと呼ばれるものがあります。
ではMBSRとMBCTの違いはどこにあるのでしょうか?
簡単に言えば、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)が慢性疼痛などの身体的な症状に効果があるのに対して、マインドフルネス認知療法(MBCT)はうつ症状などの精神的な症状により特化した治療法です。
MBSRが元になっていて、MBSRを精神的な症状に特化したプログラムへ改変したものがMBCTということですね。
MBCTには抗うつ効果があり、特に3回以上うつ症状を再発しているような患者(反復性うつ病患者)に対しては通常の治療法よりも効果が大きいことが知られています。
その他にも、双極性障害(躁うつ病)患者の不安感の軽減や、摂食障害の改善、さらに燃え尽き症候群に対する効果も知られています。
MBSRにもそうした精神的な効果は知られているのですが、抗うつ・抗不安効果に関してはMBCTの方が効果が強いです。
ちなみにMBCT以外にもMBSRの派生形が存在しており、例えばがん患者用にカスタマイズされたマインドフルネスがん回復法(MBCR)や、妊娠・育児用のマインドフルネスプログラム(MBCP)など色々なものが提案されています。
ご興味があればそうした派生形について調べてみると面白いかもしれません。
マインドフルネスストレス低減法の効果
MBCTの効果は簡単にご紹介しましたので、続いて本題のマインドフルネスストレス低減法(MBSR)がどのような効果を持つか具体的にご紹介したいと思います。
まずMBSRの効果といえば、そもそもの目的の一つであった慢性疼痛の改善です。
瞑想が痛みや慢性疼痛に効果があることが以前から知られていましたが、医療機関を受診した外来患者に瞑想を教えて自分で実践してもらった状態で慢性疼痛への改善が見られた症例は、先にご紹介したカバット・ジン博士によって1985年に報告されています。
カバット・ジン博士は、従来の治療法で効き目のなかった慢性疼痛の患者に対して週に一度病院に来てもらい、そこで2時間の瞑想講座を開きました。
患者さんには家で一日45分の間マインドフルネスを実践してもらうように伝えました。具体的にはハタヨガという種類のヨガを含むマインドフルネス法を音声ガイドに基づいて実践してもらいました。
そのようなプログラムを10週間続けてもらったところ、慢性疼痛の痛み自体が緩和し、さらには不安感やうつ症状などのメンタル面にも改善が見られました。
もう一点すごいのは、この後患者さんが瞑想をやめてから1年と3ヶ月もの間これらの効果の多くが持続したそうです。
これがMBSRの効果に関する先駆け的な報告ですが、今ではその効果はもっと多岐に渡ることが知られています。
例えば心筋梗塞などの血管疾患の患者においても、やはり不安やストレスの軽減に効果があることがイギリスのエクセター大学の研究によって明らかになっています。
今のところ確かな効果が科学的に期待できるのは精神面への効果のみに留まっていますが、血圧など身体面への効果ももしかしたらあるのではないかと現在研究が進められています。
また、がんに対しても同様にメンタル面の改善効果が知られています。
がんに関してもやはり、身体的な効果については確かなことは言えないのが現状です。
あくまで闘病中のメンタル面を改善して、より健やかに病気と向き合えるようになるというのが今のところの正しい理解でしょう。
こうした精神面への効果は統合失調症など他の疾患でも確認されているので、多くの病気に共通して効果が期待できると考えても良いでしょう。
また疾患以外にも、妊婦の方の不安やうつ症状がMBSRを元にしたマインドフルネスプログラムで軽減したという報告がカリフォルニア大学の研究グループから出ており、その応用範囲の広さは凄まじいものです。
ちなみにこのMBSRは患者を対象にした医療行為ですが、一般の健常者にもいくらか効果があることが知られています。
トロント大学の研究では、一般の大学生を対象にMBSRを適用した研究データを集めて分析したところ、健常な大学生の不安感の軽減にも効果があったそうです。
MBSRはマインドフルネスが元になっているので一般人に効果があっても当たり前ではありますが、通院患者用に改良されてもやはりマインドフルネスは多くの人に効果があるものだと再確認できますね。
マインドフルネスストレス低減法を受けるには?
さてMBSRについて基本的な情報をご紹介してきました。
最後にMBSRを日本で受講する方法をお伝えしたいと思います。
まず日本においてMBSRを受講するには、いくつか方法がありますが、以下のマインドフルネスセンターのいずれかが代表的です。
- 東京マインドフルネスセンターのMBSRプログラム(日本語)
- カリフォルニア大学 サンディエゴ校のオンラインMBSRプログラム(日本語)
- インターナショナルマインドフルネスセンターのMBSRプログラム(英語&日本語通訳)
- MBSR研究会(日本語)
どのセンターも年に数回、MBSRプログラムの参加者を募集しています。
特に東京マインドフルネスセンターとインターナショナルマインドフルネスセンターとMBSR研究会は実地での講習も開いています(2021年2月現在は感染症対策のためそのほとんどがオンライン限定になっています)。
いずれも同様に、上記のリンクからホームページにアクセスし申込みを行うことが可能ですが、今回は東京マインドフルネスセンターを例にとって具体的な申込み方法についてお伝えします。
まず上記のリンクから東京マインドフルネスセンターのホームページにアクセスします。
続いて、右上のメニュー欄にカーソルを当てて、「プログラムのご紹介」の下にある「MBSR」という項目をクリックします(下図を参照)。
すると開いたページの下の方に、現在募集中のMBSRプログラムの要項が表示されるかと思います(募集中のものがない場合もあります)。
募集中の場合は申込みフォームにアクセスできるので、そこから申込みをしてください。
他のマインドフルネスセンターに関しても、同様の方法で申し込むことができます。
ちなみに、過去に東京マインドフルネスセンターのMBSRに参加された方の感想が同ホームページに掲載されています。
いくつか代表的なものをこちらに引用します。
<MBSRプログラムを受講しての感想>
・密度の濃いプログラムで、8週間で自分の変化を感じることができました。
・今までに座禅で瞑想をしたことがあるが、頭が痛くなる、膝が痛くなる等で苦痛であった。MBSRでも最初は同様であったが、実践していくうちに苦痛が次第に和らぐようになった。
・ひとつひとつの実践をとても丁寧に指導してくださり、マインドフルネス瞑想の本質を体感することができた。
・毎日45分の宿題は大変だったが、8週間限りのことと割り切り優先順位を上げて取り組めた。お蔭で習慣化できた。
(東京マインドフルネスセンターHPより引用)
このように、マインドフルネスに本格的に触れることができたり習慣化できたりというのが、こうしたMBSRプログラムのメリットです。
またカリフォルニア大学のMBSRプログラムについて実際に体験された方のブログ記事がありますので、ご興味があればこちらもご参照ください。
(ブログ記事はこちら)
これらのMBSRプログラムの料金は総じて6万円〜8万円程度になっていて、期間は8週間(オリエンテーションなどを含めて10週間のものもある)が基本です。
海外の拠点がベースとなっているカリフォルニア大学のプログラムやインターナショナルマインドフルネスセンターよりは、日本に拠点のある東京のセンターかMBSR研究会でまずは受講する方が
登録の手続きなど含めて簡単かと思います。
もし気になった方はぜひ一度チェックしてみてください。
まとめ
この記事ではマインドフルネスを医療に応用した実例であるマインドフルネスストレス低減法(MBSR)について解説しました。
病に伏している間は当然ネガティブな気分になりがちですし、痛みに苦しんだり手術を受ける不安などに襲われたりします。
そうした闘病中のメンタル面を支える効果がマインドフルネスにはあって、それを8週間のトレーニングに落とし込んだものがMBSRです。
病気に悩んでいる方でMBSRを受けてみたという方は今はまだあまり多くなく広く普及している印象はありませんが、MBSRは科学的に効果が実証されているものですから、瞑想の普及と共にMBSRの普及も進んでいって欲しいものですね。
※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。