認知行動療法とマインドフルネス

瞑想やマインドフルネスに興味がある方なら、認知行動療法という言葉を一度は聞いたことがあるかもしれません。

今回は認知行動療法とは何なのか、また瞑想やマインドフルネスとどう関係しているのかといった点について紹介します。

 

認知行動療法とは

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy;CBT)とは、認知(ものの考え方や受け取り方)に働きかけ、自らをコントロールする力をつけていく精神療法(心理療法)の一種です。

 

私たちは、自分が置かれている状況や他者との関係について、絶えず主観的に判断をしています。しかし、強いストレスを受けている時やうつ状態の時などは、「認知」に歪みが生じ正しい判断ができなくなります。認知の歪みは抑うつや不安感を強めるだけでなく、「行動」を悪い方向へ変化させます。この行動の変化が認知の歪みをさらに悪化させ、悪循環に陥ることで様々な精神・心理面での障害が起こるのです。

 

認知行動療法では、この「認知」と「行動」に焦点をあててアプローチをおこなうことで、それぞれの変容を促し、障害を改善させることを目的としています。

 

(塚野 弘明.認知行動療法の理論と基本モデル.岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 14,2015)

認知行動療法の実際

それでは次に、認知行動療法が実際どのようにおこなわれているのか、慢性不眠の実例を交えて紹介します。

 

【クライアント】

・18歳男性(高校生)

・主訴:小学生の頃から夜更かしによる不眠と体調不良(頭痛、倦怠感、腹痛)に悩まされている。服薬せずに不眠を解消したい。

・家族構成:母親、本人

・生活状況:母親は働いているが持病を抱えており、手術費用などで生活は困窮している。

 

【第1回面談】

・主訴、現病歴、生活状況等の聴取

主訴や夜更かしの経緯、家族関係や経済面を含めた生活状況等について細かく聴取した。

【第2回面談】

・アセスメント、心理教育

質問紙を用いた評価により、将来に対する不安や心の病が不眠の原因になっていることが推察された。心理教育として、「すべての人に最適な睡眠の量は存在しない」、「人間は24時間周期をもつ恒常的な体温リズムと睡眠−覚醒パターンを持っている」、「睡眠不足を補うための昼寝、早い入床、寝すぎは問題を長引かせる」といった睡眠教育をおこなった。また、睡眠をセルフモニタリングするために、睡眠時間や睡眠の質を記録する「睡眠日誌」をつけることを課した。

 

【第3回面談】

・睡眠衛生教育、行動療法

2週間の睡眠日誌の記録を振り返りながら、自身の睡眠の特徴を理解した。行動療法的技法について説明し、次回までに取り組むことを指示した。具体的には、就寝時間と起床時間を決め、平均睡眠時間を決定した。また、就寝前のゲームはやめる、定期的に運動をするといった睡眠衛生に関わる行動目標を定めた。さらに、行動療法的アプローチとして、眠る時以外はベッドを使わない、ベッドの中で今後の計画を立てない、眠れなければ一度ベッドから出るなどのルールを定めた。これらの目標やルールは一方的に定めるのではなく、クライアントの意志を尊重し協議しながら設定した。

 

【第4~10回面談】

・治療効果の評価、フォローアップ、認知療法

睡眠日誌の記述内容やヒアリングにより、治療効果の評価をおこなった。効果がある場合は継続して治療をおこない、効果がみられない場合はその原因をクライアントとともに考え、行動目標を修正するなど治療内容を変更した。また将来への不安や家族関係など適宜ヒアリングをおこない、不眠の原因を精査した。

 

【第11回面談】

・治療効果の評価、フォローアップ

日中の眠気はなくなり、睡眠の質も向上した。就職試験が近くなり、生活パターンが変わる時期を迎えたら事前に計画を立て、心構えを持って臨むようにアドバイスをおこなった。

 

【第12回面談】

睡眠時間や睡眠の質に乱れはなくなり、不眠の問題はほぼ解決した。半年後に控える就職試験に向けて、新たな目標を設定した。

 

(塚野 弘明.慢性不眠の認知行動療法.岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 15,2016)

認知行動療法のポイント

認知行動療法のポイントとして、行動の変容を通して自ら認知の歪みに気づき、修正することが挙げられます。そのためには、医療者側が一方的に行動目標を決めてしまうのではなく、クライアントが自主的に目標を定められるように促すことがとても重要です。また、この自らの「気づき」を重視する点はマインドフルネスや瞑想と共通した考え方になります。

 

マインドフルネス認知療法(Mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)

認知行動療法の歴史はソーシャルスキルトレーニングに代表される第一世代、認知再構成法に代表される第二世代、そして現在の主流でありマインドフルネス認知療法に代表される第三世代に分けられます。

 

マインドフルネス認知療法とは、うつ病の再発予防に特化したプログラムとして開発されました。心に浮かぶ思考や感情に従い、価値判断をするのではなく、ただ思考が湧いたことを一歩離れて観察するという、マインドフルネスの技法を用い、否定的な考えや行動を繰り返さないようにすることで、うつ病の再発を防ぐことを目指します。

 

マインドフルネス認知療法に関する研究はこの20年で急増しており、うつ病の再発予防から不安障害、がん患者の心理的ストレス、依存症などさまざまな疾患に対する治療効果のエビデンスが蓄積されています。

 

マインドフルネス認知療法の効果機序

マインドフルネス認知療法には様々な効果機序が考えられていますが、その一つがマインドフルネスによる「脱中心化」です。脱中心化とは「思考を動かしがたい『現実』ととらえるのではなく、脳が作り上げるひとつの『現象』としてとらえる」ことを指します。

「なぜあんなことを言ってしまったのか」、「きっと失敗するに違いない」など、過去の後悔や未来への不安が頭の中を支配しているときに、このような思考や感情を「脳が作り上げたひとつの現象」そしてとらえることで、ネガティブ思考や感情をあるがままに、客観的に観察できるようになります。

 

この脱中心化へ向かうプロセスとして、身体や呼吸、音などを丁寧に観察するトレーニングがあります。これらのトレーニング後に思考に焦点をあてて瞑想をおこなうと、頭に浮かぶ思考やイメージが常に移り変わるものであることに気づき、思考は「脳でおきている現象」に過ぎず、「自己と一体ではない」ことを体感的に理解することが可能になるのです。

まとめ

認知行動療法の実際について実例を交えて紹介し、認知行動療法の第三世代と言われているマインドフルネス認知療法について解説しました。マインドフルネスを高めるツールの一つに「睡眠瞑想アプリRelook」があり、日々のマインドフルネス瞑想をサポートしてくれます。マインドフルネス瞑想の実践により脱中心化を経験することで、新たな気づきが得られるのではないでしょうか。

 

※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。