パフォーマンスを高める方法


私は昔から身体やメンタルが弱く、受験生時代にもうまく勉強に集中することができず非常にもどかしい思いをしていました。

なぜ私はこんなに集中できないんだろうか。
その理由が知りたくて私は脳科学に興味を持つようになり、今では大学院に進学して脳の研究に取り組んでいます。

この記事では、その中で私がたどり着いたパフォーマンスを高める科学的な方法のひとつである瞑想について紹介していきます。

この記事を読んでいる方は既に聞いたことがあるかもしれませんが、瞑想はここ数十年で心理学、脳科学の分野で膨大な研究が行われていて、私たちのパフォーマンスを高める効果があるということが繰り返し確認されているんですよ。

この記事を読めば、今まで10時間かかっていた仕事を5時間で終わらせられるようになるかもしれません。
D判定やE判定の大学に逆転合格できるようになるかもしれません。
大袈裟に聞こえるかも知れませんが、瞑想は実際に私たちの脳を変化させ、また認知機能を高めるということが研究で検証を重ねられています。

それでは早速、瞑想をすると脳がどう変わり、どう私たちのパフォーマンスを高めてくれるのかを明らかにした論文を紹介していきましょう。

瞑想は脳をどう変えるか


まずは、瞑想が脳のどの部分を変化させるのかについて紹介していきましょう。
そのあとで、その脳の変化がどのように私たちのパフォーマンスを高めるのかについて解説していきます。

瞑想によって脳の構造が変化するということを報告した論文は山のようにあります。
あまりにも多すぎてとても全てに目を通すことはできないのですが、ありがたいことに、それらの研究を総まとめにしたメタ分析論文[1]が2014年に報告されています。

メタ分析とは、複数の研究論文をあらためて見直して、まとめなおしたものです。
複数の論文を見比べるという性質から、あらゆる研究の中でも最も信頼がおける研究手法になります。
これなら、仮に一人の研究者が嘘をついていても、その論文に騙されることはありません。

さて、そのメタ分析論文では21報もの論文を総まとめにして、瞑想をするとどの脳領域が大きくなるのか明らかにしました。

その結果、以下のような領域が瞑想により大きくなることが示されました。
一気に専門用語を垂れ流しますが、いろいろな脳領域が変化するのだなと感じてもらえれば大丈夫です。

・RLPFC(Rostro Lateral Prefrontal Cortex, 吻側外側前頭前野)
・ACC(Anterior Cingulate Cortex, 前帯状皮質)
・Insula(島皮質)
・Hippocampus(海馬)
・Fusiform(紡錘状回)
・ITG(Inferior Temporal Gyrus, 下側頭葉)
・Somatosensory Cortex(体性感覚野)
・SLF(Superior Longitudinal Fasciculus, 上縦束)
・Corpus Callosum(脳梁)

これらの脳領域です。
いろいろありますよね。
もちろんどれも重要な脳領域なのですが、今回はこの中でも以下の3つの脳領域に着目して紹介していきましょう。
それらは特に認知機能において重要と考えられるからです。

RLPFC(論文や記事によってはDLPFCという言葉を耳にするかもしれませんが、ほぼ同じ領域と言っていいと思います)
ACC
SLF

これらです。
この記事では、この三つの暗号のような英語の羅列を、せっかくなので理解した気になってみてください。
なるべくわかりやすく説明していきますが、分からなくなったら無理せず読み飛ばしてもらっても大丈夫ですよ。

では、それぞれ何をつかさどっているのでしょうか。

RLPFCの役割

まずはRLPFC。
これはちょうどおでこの裏側あたりに位置する脳領域です。
脳は後ろから前に向かって進化していると言われているのですが、このRLPFCは特に後の方に発達した脳領域と言えそうです。
いいかえれば、ネズミやサルではあまり発達していなくて、人間で特に大きくなっている場所です。

なので、人間の人間らしさに特に重要な場所と予想されるのですが、具体的にはなにをしているんでしょうか。
それは抑制という能力だと考えられています。

抑制といわれてもよくわからないかもしれませんね。
そしたら、こんな場面を想像してみてください。

仕事で嫌なことがあった。
ずっとそれがモヤモヤしていて、今にも叫びたい気分だ。
でも電車の中だから我慢しよう。

こんな時、私たちはRLPFCを使って衝動を抑制します。
他にも、つい気が散ってしまうときや、ダイエット中につい甘いものに手を伸ばしそうになってしまう時にもこの領域が役に立ちます。

なるほど、瞑想をしている時には「動きたい」とか「考えたい」といった衝動を抑える必要があります。
瞑想によって抑制を司るRLPFCが大きくなることは必然のようにも思えてきますね。
これがどのようにパフォーマンスの向上につながるかはこの記事の後半でまた考えていきましょう。

ACCの役割

次にACC。
これは、前頭葉の中でも奥の方にある脳領域です。
言い換えれば、前頭葉(理性の脳)と脳の深部(本能の脳)を結びつける位置にあります。

つまり、理性と本能の橋渡しをする、重要な場所にあるんですね。
重要な場所にあるだけあって、このACCは驚くほど多くの役割があると考えられています。
代表的なものを挙げると・・・

・学習
・不安の処理
・モニタリング

などなど、急に言われても腑に落ちないぐらい多様な役割があります。
学習や不安の処理はまだわかりやすいかもしれません。

ACCが活動することで学習が促進されたり、ACCが活動することで不安を感じられる(=ちゃんと天敵から逃げたりできる)ということが起きます。

一見わかりづらいモニタリングは何かというと、自分がいまどんな状態にいるか、などを感じとることを意味します。
例えば勉強をしていてついスマホに手を伸ばしてしまったとします。
そんなときにACCが働くと「あ、集中力切れてるな、まずい」などと「気づく」ことができます。
これもACCの役割なんですね。

瞑想をしている時には、3つめのモニタリングの機能がフル回転します。
「今自分は何を感じているのか?」
「今ちゃんと集中できているか?」
こんな感じで常にモニタリングすることは瞑想そのものです。
瞑想でACCが大きくなるのも頷けますね。

SLFの役割

最後にSLFです。
もし瞑想にある程度くわしい人であれば、上に書いたRLPFCとACCが大きくなることは聞いたことがあるかもしれません。

一方でSLFの存在はあまり聞いたことがない人も多いかもしれませんね。
でも、SLFは実はRLPFCやACCに勝るとも劣らない非常に重要なものなんです。

というのも、SLFは「脳領域どうしをつなぐ繊維」だからです。
脳における繊維ってなんでしょうか?

たとえていえば、私たちにとってのインターネットのようなものにあたります。
私たちがちゃんと経済活動をスムーズにおこなえているのは、インターネットによって瞬時にメールなどで情報を送れるからですよね?
急にインターネットが切れてしまったら、経済活動はストップしてしまうでしょう。

それと同じです。
SLFは繊維なので、脳領域間での情報のやりとりを可能にします。
これが切れてしまえば、私たちの脳活動もうまくいきません。
そのぐらい、脳の中での繊維は重要なんですね。

しかも、SLFはその中でも特に重要な繊維と言われています。
なぜなら、前頭葉と頭頂葉という、私たちの脳の中でも東京と大阪に当たるような大都市をつなぐ繊維だからです。

もちろん他の繊維も重要なのですが、このSLFという繊維は特に認知機能において重要です。
例えば、SLFが太い人はIQが高い、なんてことが確かめられているんですね。

瞑想によってそれが太くなるって結構すごいと思いませんか?

瞑想の効果

集中力の向上

さて、瞑想でどんな脳領域が大きくなるかについて説明してきました。
ようやくですが、それによって私たちのパフォーマンスがどのように変化するのかについて考えていきましょう。

まず一つ目は集中力の向上です。
瞑想をすると集中力が上がります[2]
なぜそんなことが起こるのでしょうか。
というか、そもそも集中力ってなんでしょうか。

集中力という言葉には、実は研究の世界でも明確な定義はないのですが、以下のようなものが集中力であると考えてみましょう。

・不要な外部情報を遮断する力
・雑念を抑える力

この2つです。

不要な外部情報を遮断するというのはなんでしょうか。
例えば勉強中に外から工事の音が聞こえてきたとします。
もしあなたが深い集中状態に入っているとしたら、その音は遮断されますよね?
このように不要な外部情報を遮断する力は、集中力の大事な要素です。

そして、雑念を抑える力、これはわかりやすいでしょうか。
もしあなたの集中力が途切れそうなとき、つい他のことを考えてしまうかもしれません。
みたい映画のこと、好きな人のこと、などなど。
このような雑念を抑制する力も、集中力の大事な要素と言えます。

これらの能力が瞑想によって向上するのはなぜか?
それは、RLPFCとACCが増大することから説明がつきそうです。

それぞれの役割はもう忘れてしまったかもしれないので復習しておくと
RLPFCは抑制
ACCはモニタリング
をつかさどるのでした。

まず、不要な外部情報や雑念を「抑制」するためにはRLPFCが活動する必要がありそうですね。
そして、そもそも「いま不要な外部情報があるな」とか「雑念が浮かんでいるな」などと気付くためには、ACCが活動してモニタリングする必要があります。

瞑想によってこれらの脳領域が大きくなるので、このような要素を鍛えることができるといえるでしょう。
実際、あるメタ分析の研究でも、瞑想によって集中力(実行機能や注意機能)が高まるということが確認されています[3]。

瞑想をすれば、雑念にまどわされることなく仕事や勉強をこなすことができるといえます。
スポーツのパフォーマンスを向上することにもつながるでしょう。

何かに取り組むとき、ついスマホが気になってしまう、瞑想を取り入れれば来週には驚くほど深い集中力を手に入れられるかもしれません。

ワーキングメモリの向上

次に、瞑想によってワーキングメモリが向上することも確認されています。
ワーキングメモリは、短いあいだ仕事に指示などを覚えておくような、短期記憶などの認知機能を指します。
これはIQや学業成績と相関することが知られているので、パフォーマンス向上には欠かせない要素と言えそうです。

例えば2010年にConsciousness and Cognition誌に報告された研究[4]では、実験協力者に1回20分の瞑想を4日間続けてもらいました。
20分程度なら手軽に取り入れられそうです。
結果、ワーキングメモリ課題の正答率が統計的有意に向上したことが報告されました。

なぜ、瞑想でワーキングメモリが向上するのでしょうか。
これも、RLPFCやSLFなどの増加から説明ができそうです。

ワーキングメモリを実現するためには、実は「抑制」の能力が非常に重要だということがわかってきています。
頑張ってものごとを覚えている間に、雑念や雑音が出てきたら、それをきっちり抑制しないといけない、ということですね。
そのためにはRLPFCが必要です。
なので、瞑想によってRLPFCが鍛えられれば、ワーキングメモリも向上すると考えられます。

一方でSLFはなんだったか覚えていますか?
SLFは前頭葉と頭頂葉をむすぶ繊維です。

じつは、ワーキングメモリの実現には前頭葉と頭頂葉がとても大事なんですね。
この二つの領域をむすぶネットワークのことを英語でFrontoparietal Networkなどといったりします。
前頭・頭頂ネットワークです。
SLFはまさしくこれらをむすびつける繊維なので、これが太くなればワーキングメモリが向上するのは必然かもしれません。

実際、瞑想でワーキングメモリ能力があがることも、メタ分析で確認されています[3]。
それによって、仕事の指示を忘れることは減るかもしれませんし、難しい概念を理解するスピードも上がるかもしれません。

感情制御能力の向上

さて、仕事などにおけるパフォーマンスに重要なのは集中力や記憶力だけではありません。
感情を制御することもとても大事なのではないでしょうか?

たとえば仕事をつい投げ出したくなっても、諦めずに取り組むことだって、パフォーマンスには重要です。

瞑想は感情制御の能力を向上させることも報告されています。
特にネガティブ感情の改善には目を見張るものがあります。

例えば2020年にFrontiers in Psychology誌に報告された研究[5]では、77名の教師がマインドフルネスを4日間訓練したところ、統計的有意にネガティブ感情やストレスが減少したことを報告しています。

これはなぜ起こるか?
これもRLPFCとACCの増大などから説明がつきます。

RLPFCとACCは、両方を合わせて「エグゼクティブネットワーク」と呼ばれています。
エグゼクティブはいわば社長のような意味ですが、RLPFCとACCは脳の社長のような役割なんですね。

これらのエグゼクティブネットワークは、脳の感情をつかさどる部位である扁桃体と強い結びつきがあります。

扁桃体が活動すると私たちはすごく嫌な感じがします。
怖いとか不安だというとき、扁桃体が活動して、本能が理性をジャックします。
怖くて泣き出してしまうとき、扁桃体が脳をジャックしています。

RLPFCとACCのエグゼクティブネットワークは、この扁桃体の活動を制御する力があります。
たとえていうなら、綱引きのような関係にあるのです。

瞑想によってRLPFCとACCが鍛えられることによって、私たちは扁桃体の活動を制御できるようになっていく。
それによって、感情制御が向上するんですね。

この効果も同じようにメタ分析で確認されています[3]。
しかも、この感情制御や、ネガティブ感情の減少という効果は、瞑想によって得られる効果の中でもとりわけ確実で大きいものです。

瞑想をすることで、仕事中に少しうまくいかなくても、気にすることなく没頭することができるかもしれません。
スポーツで相手にリードされていても、高いパフォーマンスを維持できるかもしれません。

まとめ

以上、けっこう長くなってしまいましたが、瞑想によってパフォーマンスがどう上がるかについて解説していきました。
瞑想は、RLPFCやACC、SLFといった脳部位や繊維を大きく太くすることで、集中力やワーキングメモリ、感情制御の能力を向上します。
その効果はメタ分析によってお墨付きです。

つまり、瞑想をすればあなたは高い集中力で、冴えた頭で、感情に惑わされることなく仕事や勉強、スポーツに取り組めるかもしれません。
その効果を得るためには、決して長い期間の鍛錬が必要ということはなく、数日間の瞑想でも効果が得られることがわかっています[6]。
それに、お寺に行って瞑想に修行のように取り組まなくても、スマホのアプリであっても効果が得られることが示されています[7]。

ぜひ、気軽な気持ちで瞑想の習慣を取り入れてみてください。
何から始めればいいかわからない人は、Relookのアプリを試しにインストールしてみると、簡単に瞑想をはじめることができます。
きっと満足のいくパフォーマンスが得られるようになるはずです。興味を持たれた方はぜひ下記のリンクから参照してみてください。

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※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。


関連記事:瞑想でIQが上がる?医学博士が瞑想の脳への効果を方法と共に解説!

 

 

引用文献

[1] Fox KC, Nijeboer S, Dixon ML, Floman JL, Ellamil M, Rumak SP, Sedlmeier P, Christoff K. Is meditation associated with altered brain structure? A systematic review and meta-analysis of morphometric neuroimaging in meditation practitioners. Neurosci Biobehav Rev. 2014 Jun;43:48-73. doi: 10.1016/j.neubiorev.2014.03.016. Epub 2014 Apr 3. PMID: 24705269.

[2] Chin B, Lindsay EK, Greco CM, Brown KW, Smyth JM, Wright AGC, Creswell JD. Mindfulness interventions improve momentary and trait measures of attentional control: Evidence from a randomized controlled trial. J Exp Psychol Gen. 2020 Sep 24. doi: 10.1037/xge0000969. Epub ahead of print. PMID: 32969686.

[3] Eberth, J., Sedlmeier, P. The Effects of Mindfulness Meditation: A Meta-Analysis. Mindfulness 3, 174–189 (2012). https://doi.org/10.1007/s12671-012-0101-x

[4] Zeidan F, Johnson SK, Diamond BJ, David Z, Goolkasian P. Mindfulness meditation improves cognition: evidence of brief mental training. Conscious Cogn. 2010 Jun;19(2):597-605. doi: 10.1016/j.concog.2010.03.014. Epub 2010 Apr 3. PMID: 20363650.

[5] Song X, Zheng M, Zhao H, Yang T, Ge X, Li H, Lou T. Effects of a Four-Day Mindfulness Intervention on Teachers’ Stress and Affect: A Pilot Study in Eastern China. Front Psychol. 2020 Jun 30;11:1298. doi: 10.3389/fpsyg.2020.01298. PMID: 32695044; PMCID: PMC7338718.

[6] Creswell JD, Pacilio LE, Lindsay EK, Brown KW. Brief mindfulness meditation training alters psychological and neuroendocrine responses to social evaluative stress. Psychoneuroendocrinology. 2014 Jun;44:1-12. doi: 10.1016/j.psyneuen.2014.02.007. Epub 2014 Feb 23. PMID: 24767614.

[7] Linardon J, Cuijpers P, Carlbring P, Messer M, Fuller-Tyszkiewicz M. The efficacy of app-supported smartphone interventions for mental health problems: a meta-analysis of randomized controlled trials. World Psychiatry. 2019 Oct;18(3):325-336. doi: 10.1002/wps.20673. PMID: 31496095; PMCID: PMC6732686.