Google 、故スティーブ・ジョブズ、イチローなど、世界の一流企業や名だたる有名人が日常的に瞑想を行っていることが広く知られるようになりました。
これだけ大御所がやっているというと
「瞑想って、本当に誰にでも効果があるの?」
と疑いたくなってしまいます。
しかしもはや、瞑想は見えない世界だけの話ではなくなりました。
瞑想することで頭の中ではどのような変化が起きているのか?
数千年前から行われていた瞑想に、ようやく科学が追いついてきた形です。
瞑想によって脳がどう変化するのか、そして変化によってもたらされる効果、また具体的なマインドフルネス瞑想の方法について解説します。
目次
瞑想で脳が変化するとはどういうことか
子供のころは物覚えが良かったのに、最近はもの覚えが悪い
といったように、脳の神経細胞は、長い間、ある年齢まで達すると老化が進むばかりだと考えられてきました。
しかし、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)の登場によって、大人の脳であっても可塑性があり、神経回路やシナプスが行動や環境によって変化することが、画像として捉えられるようになりました。
あるロンドンのタクシードライバーを対象に脳の変化を調べた研究では、知識に基づいた理解よりも、経験に基づいた理解が大切であることが示されています。(#1)
(参考#1:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3268356/)
このような報告から、神経科学の分野では、瞑想経験が脳に与える影響に関する研究が盛んに行われるようになりました。
ある研究では、瞑想のやり方の違いによって脳の活動する部位が異なることが明らかにされました。(#2)
サマタ瞑想と脳の変化
呼吸、ろうそくの炎、祈りなど、何かひとつの対象に意識を集中させることで心を安定させるサマタ瞑想では、以下のような脳内の部位で変化が見られました。
①活性が増加する部位
・背外側前頭前野
・前運動野
・前帯状回背側部
・島皮質中部
②活性が低下する部位
・後帯状皮質
・下頭頂小葉
ヴィパッサナー瞑想と脳の変化
物事をありのままに見るというヴィパッサナー瞑想では、以下のような部位で脳内の変化がみられました。
①活性が増加する部位
・背外側前頭前野
・吻側外側前頭前野
・下前頭回
・前帯状回背側部
・補足運動野
・島皮質中部
②活性が低下する部位
・吻側内側前頭前野
・後帯状皮質
(参考#2:村椿智彦, マインドフルネスの神経基盤ー意志作用と行為直観に対する考察, マインドフルネス精神療法, 第3巻第1号 p3-14 )
このように、瞑想のやり方によって、脳の活性の増減が共通する部分やそうでない部分があることが指摘されています。
瞑想で変化する脳の部位とは?
瞑想によって脳のどの部位に影響が及ぶのか、すでに瞑想を実践している人を対象にした研究と、瞑想初心者を対象にした研究で若干異なる報告がなされています。
【瞑想実践者】脳の変化する部位
瞑想によって脳の構造に変化が生じるのか、約300人の瞑想実践者を対象に分析された研究では、以下の部位の灰白質が増加していることが指摘されています。(#3)
(参考#3:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24705269/)
①前頭極
…前頭葉の一番前の部分で、自分自身の思考や行動を客観的に把握するメタ認知と関連する部位です。
②島皮質
…側頭葉に位置する行動の知覚と関連する部位です。
③海馬
…側頭葉の深部に、左右一対となって存在し、記憶や学習に関わる部位です。
④前帯状皮質 / 眼窩前頭皮質
…心のさまよいや動機付けに関わる部位です。
⑤脳梁
…脳の中心に位置し、左右の脳をつないでいる部位です。
【瞑想初心者】脳の変化する部位
マサチューセッツ総合病院とハーバード大学医学部の神経科学者であるラザール氏は、これまで瞑想をしたことのない人を対象に、8週間のマインドフルネスに基づくストレス低減プログラム(MBSR)を行ったことで、以下の脳の構造の変化がみられたことを発表しました。(#4)
(参考#4:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3004979/)
以下の4つの領域で、灰白質の肥厚が見られました。
①左海馬
…記憶や学習に関わる部位です。
②後帯状皮質
…心のさまよいや自己関連性に関わる部位です。
③側頭頭頂接合部
…共感や思いやりに関連する部位です。
④橋
…脳幹にあり、多くの神経伝達物質が生成される部位です。
以下の領域の灰白質は減少しました。
⑤扁桃体
…海馬の内側に左右存在し、不安や恐怖といった感情の中枢といわれる部位です。
脳の変化によってもたらされる効果
上記のように、瞑想には各役割をもつ脳の部位に影響を与える可能性があることが指摘されています。
また、瞑想のやり方によって脳の活性部位が異なることは前述したとおりで、マインドフルネスにはサマタ瞑想とヴィパッサナー瞑想の要素、さらに自分や他人に対する思いやりを向ける慈悲の瞑想の要素が複合されています。
そのため、マインドフルネスによってより多くの脳の部位の活性とそれに伴う変化がみられ、さまざまな効果として現れていると考えられます。(#5)
(参考#5:村椿 智彦, マインドフルネス精神療法 第3巻第1号 2017年5月, マインドフルネスの神経基盤ー意志作用と行為的直感に対する考察)
以下、マインドフルネス瞑想を行うことで起きる脳の変化とその効果について紹介します。
前頭極の変化→メタ認知能力の向上による効果
メタ認知とは、自分の感情や思考のプロセスから離れて、自己を客観的に捉えることです。これにより、以下のような効果が生まれます。(#6)
・ネガティブな思考のパターンを減少させる
・うつ病の再発を回避するのに役立つ
海馬の変化による効果
・アルツハイマー病の予防の可能性(#7)
(参考#7:https://www.hindawi.com/journals/np/2018/5340717/)
・恐怖体験のストレスからの回復力を促進する(#8)
(参考#8:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006322319314076 )
前帯状皮質の変化→情動の制御能力の向上による効果
・不安が減少する(#9)
(参考#9:https://academic.oup.com/scan/article/9/6/751/1664700)
側頭頭頂接合部の変化による効果
・思いやりの増加
扁桃体の変化による効果
・不安や恐怖の減少
島皮質の変化による効果
・自己認識能力の向上(#10)
(参考#10:https://academic.oup.com/scan/article/2/4/313/1676557)
脳の構造を変えるマインドフルネス瞑想のやり方
瞑想初心者の脳の構造が変わったことが示された8週間のMBSRプログラムで行われる主な瞑想のやり方を解説します。
ボディスキャニング
横になって目を閉じ、仰向けの状態で足の爪先から頭のてっぺんまで順番にゆっくり、各部位の感覚など状態を味わい確認していきます。
何も感じられないという感覚も大事です。
普段、気づきにくい体の声を聴きとるつもりで行ってみてください。
詳しい手順の説明に関してはこちらの記事で解説しています。
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座って行う瞑想
座り方はイスの上でも、足を組んだ状態でも、どちらでも構いません。
瞑想に集中できる姿勢で、呼吸に意識を集中させます。
途中で、他のことを考え出したり、感情が湧いてくることがありますが、そっと優しく呼吸に意識を戻す、というのを繰り返し行います。
短い時間から始めて、徐々に瞑想時間を長くしていきます。
詳しい手順はこちらの記事で解説しています。
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瞑想の簡単なやり方を5分で解説!初心者でもできるお手軽瞑想法
さらに慣れてきたら、途中で浮かんできた思考や感情に意識を向ける練習をします。
思考や感情は「自我」にがっしりとくっついていて離れようとしないものですが、そっと観察することで、すっと手放れていきます。
歩く瞑想
室内で10-15歩、歩けるスペースで歩きながら足の感覚や重心の移り変わりに意識を向ける瞑想です。
この歩く瞑想で、歩くことに意識を集中させる練習をすると、普段、歩く時に何を考えているか、どんな気持ちでいるかを改めて認識できる機会になります。
ぜひチャレンジしてみてください。
詳しい手順はこちらの記事で解説しています。
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歩行瞑想のやり方や効果を解説【DaiGo実践の歩行瞑想をマスター】
食べる瞑想
レーズン1粒を用意して、まずはレーズン1粒に興味を持ち臭覚、味覚、触覚、視覚、聴覚すべての感覚に集中して観察することを始め、ゆっくりと味わっていきます。
<やり方>
・初めてレーズンというものを目にしたかのような好奇心をもって、手のひらのレーズンを観察します。
・レーズンを触った感触を味わいます。
・レーズンの匂いをかぎます。
・耳元でレーズンを指の間で転がし、どんな音がするのかを聞きます。
・ゆっくり口にレーズンを入れ、噛まずに舌の上で感触を味わいます。
・レーズンを左右の頬に押し付けて、感触を味わいます。
・ゆっくりレーズンを噛み、噛んだ感触と味に注意を向けます。
・小さくなるまで噛んだら、飲み込み、喉を通って食道へ下がっていく感覚を味わいます。
こんなにゆっくりと味わう機会は、意識して作らない限り、日常の中では体験できないものかもしれません。
食べる瞑想は、過食の防止にもつながります。
下記の誘導音声による食べる瞑想も、参考にしてみてください。
【参考】
Relookアプリ>「瞑想」タブ>「悩み別」>「カラダ」>「健康的なカラダになる」>「ダイエットが楽になる食べる瞑想」
Relookアプリについてはこちらを参照してみてください。
マインドフルなヨガ瞑想
立った状態や横になった状態、または床や椅子に座った状態で、体の緊張がある場所に気づいてリラックスさせ、呼吸を意識しながらストレッチを行います。
無理をしていないかどうかは、呼吸が良い目じるしとなります。
痛みを伴うほどのストレッチは必要なく、呼吸が浅くなったら力を緩めて、自分自身を労わりながら痛みが生じない程度のストレッチを心がけます。
また、今、体のどの部位を意識して動かしているのか、その部位の感覚を確かめながら行うのが特徴です。
時に、子供のように無邪気に体を動かし、子供のように好奇心をもって取り組むことで、より「今」の瞬間に夢中になれマインドフルな状態を作れます。
実際のやり方は、以下のYouTube動画を参考にしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=_pYoDdUijY8
まとめ
脳には神経可塑性があり、瞑想をすることで脳内に変化が起きるということが、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)の画像として捉えられるようになりました。
瞑想の種類や瞑想の熟達度によって、それぞれ脳の活性部位や変化が見られる場所が異なります。
とくにマインドフルネスは、脳の様々な部位に作用し、その効果について科学的な裏打ちが次々となされています。
8週間で脳の変化がみられる瞑想法として、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)のプログラムがあります。
その中で行われている瞑想のやり方について解説しました。
※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。
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