怒りと瞑想

あなたは怒りっぽい方ですか?それともいつも穏やかでめったに怒ることはありませんか?

最近ではアンガーマネジメントという言葉も流行しており、怒りをうまくコントロールすることでメンタルヘルスを良好に保ち、仕事にも良い影響を及ぼすことが知られています。

今回は、日常的に誰もが経験する「怒り」に対する瞑想の効果について紹介します。

 

「怒り」とは

そもそも「怒り」とは何なのでしょう?

怒りは自分を守るための自己防衛手段とも言われていますが、怒りに支配されることなく、怒りを上手くコントロールすることができれば、心穏やかに過ごすことができ、トラブルも回避することができます。

 

西洋最大の哲学者の一人であるアリストテレスは、怒りを「自分自身または自分に属するものに対するあからさまな軽蔑、しかも不当な軽蔑によって起こされる復讐への欲求、苦痛を伴った欲求」と、動機付けを持つ社会的な感情として定義しました。

 

また「心の安定」について多くの名言を残している、ストア派哲学者のセネカは「人間は相互の助け合いのために生まれた。怒りは破滅のために生まれた。人間は集合を欲する。怒りは離散を欲する。人間は貢献を欲する。怒りは加害を欲する」として、「いかに多くの人を憎んだ後で愛し始めたかに思いを馳せれば、ただちに怒りを発したりはしない」と怒りを認知的にとらえる対処法にも言及しています。

 

このように、負の衝動である怒りをどのようにコントロールするかといったことは、古くからの普遍的なテーマなのです。

 

怒りの科学

怒りは、自分自身の気持ちや身体を、物理的、社会的に攻撃されたと感じることによって生まれます。

その時、私たちの身体では何が起きているのでしょうか?

怒りは大脳辺縁系扁桃体という部分からスタートします。

大脳辺縁系とは、情動の表出、食欲、性欲、睡眠欲、意欲、などの本能を司っており、自律神経活動に関与しています。

扁桃体が自分自身への脅威を察知すると、視床下部、副腎髄質へと指令が伝わり、ストレスに対抗するホルモンであるアドレナリンを分泌させます。その作用で心拍や血圧、呼吸数の増大、骨格筋への血液増加、発汗などが起こります。これが怒っているときの身体の状態です。

この反応は生物の自己防衛機能を担っている一方で、怒りが持続するとストレスホルモンを長時間放出し続けることのなり、体に負担をかけます。

また、怒りのほこ先が自分自身に向かってしまう場合は、自分を責め、うつの原因になる場合があります。

 

それでは、この怒りをコントロールするにはどのような方法があるのでしょうか?

 

アンガーマネジメント

アンガーマネジメントの基本的な考え方とは、怒らないことを目指すのではなく、怒りに振り回されず、必要のあることには上手に怒り、必要のないものは怒らないことを目指します。つまり、怒りで後悔しないことを目指すトレーニングなのです。

 

また、今日から始めることのできるアンガーマネジメントを2つ紹介します。

①アンガーログをつける

自分の怒りを見える化するための記録、「アンガーログ」をつけます。怒りを感じたその場で、日時・相手・出来事・思ったことを書き出し、点数化します。

自分の怒りレベルを最大10点とした時に、今日の怒りは何点かを記録します。

自分がどんな時に怒りやすいか、怒りの傾向を知ることにより、あらかじめ心の準備ができるようになります。

 

②6秒をやり過ごす

怒りを感じたら、反射的に行動することは厳禁です。

怒りにはピークがあり、諸説ありますが長くても6秒と言われています。この6秒を深呼吸をしてやり過ごすことができれば、衝動的な行動を避けることができます。

(早野光子.ムダな怒りが消える心のトレーニング「アンガーマネジメント」.クリエイティブ房総.97.http://ctv-chiba.or.jp/jichi/jigyou-shoukai/kuribou/creative/pdf/97-5.pdf

 

マインドフルネス瞑想によるアンガーマネジメント

それでは、本題である瞑想によるアンガーマネジメントについて紹介します。

マインドフルネス瞑想により怒りをコントロールすることができるようになるメカニズムとして、「怒りの反すうの低減」が挙げられます。

怒りの反すうとは、怒りのきっかけになった出来事に対してだけではなく、そのことについて繰り返し考え、思い出してしまうことが怒りの引き金になっていることを指します。

つまり、マインドフルネス瞑想を通して、自分自身のネガティブな感情や思考に気づき、それらから距離を置いて対処するスキルが新たに獲得されることにより、怒りの反すう傾向が低減すると考えられます。

 

ロサンゼルスの大学生464人を対象に、マインドフルネスや反すう、怒り、敵意、攻撃性についてアンケートを実施した研究では、怒りや攻撃性が高い人ほど物事を反すうして考える傾向があり、怒りや攻撃性には反すうというプロセスが強く関わっていることを示しました。一方、マインドフルネスの高い人では、怒りや攻撃性は低い傾向にあり、また物事を反すうする傾向も低いことが示されています。

(Borders A et.al, Could Mindfulness Decrease Anger, Hostility, and Aggression by Decreasing Rumination? Aggress Behav.36, 2010)

 

次に、マインドフルネス瞑想が怒りに及ぼす影響について実験的に検討した筑波大学の研究を紹介します。

 

64人の大学生を1週間マインドフルネス瞑想(呼吸瞑想)をおこなう瞑想群(37人)と、何もおこなわない対照群(27)にわけ、介入前後で質問紙による効果測定をおこないました。

瞑想群に対しては、Kabat-Zinn(1990 春木訳 2007, 2003)の開発したマインドフルネスストレス低減法 (Mindfulness-Based Stress Reduction;MBSR)の方針に沿って、特にプログラムの初期段階で行われる呼吸法および静座瞑想法に基づいて実践されました。
また、瞑想群の被験者には、介入終了後も瞑想を継続したい場合は継続しても良いとし、介入終了後4週間に一度でも瞑想を実践した群(瞑想継続群)と瞑想をしなかった群(非継続群)に分けて評価がおこなわれました。

 

その結果、対照群と比べて瞑想継続群において、怒りの反すうを評価するAnger Rumination Scale(ARS)の点数が有意に低く、怒りの反すうの低減効果は、瞑想直後のみならず、介入4週後も継続してみられました。

 

このことから、自主的にマインドフルネス瞑想を実践することにより、怒りの感情や怒りの記憶、報復したいという想いが低くなるといった、瞑想によるアンガーマネジメント効果が明らかになりました。

(平野美沙 他.マインドフルネス瞑想の怒り低減効果に関する実験的検討.心理学研究 84,2013)

まとめ



今回は、瞑想によるアンガーマネジメント効果について紹介しました。

瞑想により上手く怒りをコントロールできるようになることで、ストレスは軽減し人間関係もより良いものになるかもしれません。

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※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。