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人間の脳のピークは何歳?
私たちの脳は何歳ぐらいで最もよく働くのでしょうか?
一説には、20-30歳ごろだと考えられています。
というのも、ヒトの脳の働きの一つの指標であるワーキングメモリ(短期的な記憶力)や知能テストの点数は、20歳過ぎぐらいを境に減少傾向に転じる[1,2] WM41, WM26]ことが分かっているのです。
それに、スティーブ・ジョブズがAppleを立ち上げたのも21歳ですし、アインシュタインが特殊相対性理論を発表したのも26歳と、偉大な成功や研究は20-30歳ごろと若くしてなされることが少なくありません。
なんとかして脳を若く保つ方法はないのでしょうか。
それができれば何歳になっても満足のいく仕事をしたり、趣味で成長したりできるはずです。
その代表的な方法といえば、運動や睡眠、健康的な食生活を送ることですよね。
実際、運動をすることで脳の中で神経細胞が成長する化学物質が分泌されたりしますし、睡眠不足では早死にするということもしられています。
でも、もっと他に良い方法はないのでしょうか?
瞑想が脳年齢を若く保つ説を検証した論文
驚くべきことに、瞑想をしている人ほど脳年齢が若いということを示した研究が報告されました[3]。
その論文は2016年にNeuroimage誌という、神経科学における重要な雑誌に報告されています。
筆者らは、脳年齢を計算するための指標として「BrainAGE index(脳年齢指標)」を用いました。
この指標は、19-86歳の男女650名以上の脳構造データと機械学習に基づいて作成された指標であり、既に多くの研究で用いられているものとなっています。
さて、信頼性の高いこの指標を利用して、以下の人たちの脳年齢を計測しました。
です。
平たく言ってしまえば、瞑想をしていない人50人と瞑想を普段からしている人50人とで脳年齢を比べたんですね。
ちなみに、瞑想実践者は平均して20年もの経験を積んでいたとのことです。
研究結果
さて、その結果はどうだったかというと、なんと瞑想を実践している人たちの方が平均よりも脳年齢が若く保たれていました。
それも、50歳時点で比べると平均して7.5歳も若くなっていました。
つまり、瞑想をしている50歳の人は、普通の42.5歳の人と同じぐらいの脳構造をしていたのです。
これはかなり大きな効果と言えるのではないでしょうか。
注意点:相関研究と因果研究
ただし、一つ注意事項があるとしたら、この研究はあくまで「相関研究」であるということです。
相関研究は、科学や研究結果に触れるときにはとても重要な概念なので、知らない人はぜひここで理解してみてください。
研究には、雑に分けると「相関研究」と「因果研究」があります。
相関研究とは文字通り、ものごとの「相関」を研究したものになります。
例えば、「交番が多い町ほど犯罪が多い」という研究は相関研究にあたります。
因果研究とは「因果関係」を研究したものになります。
例えば、「英字新聞を呼んだら英語力が伸びた」という研究があったとしたら、それは因果研究になります。
なぜなら、この研究ならば「英字新聞を読む」という原因の結果として「英語力が伸びた」という因果関係が示せるからです。
この二つの研究は何が違うのでしょうか。
それは「相関研究では因果関係を示すことができない」いうことです。
この考え方はとても大事です。
先程の例でいえば、交番が多い町ほど犯罪が多い、という相関関係は成り立ちます。
しかし「交番を増やす(原因)と犯罪が増える(結果)」という因果関係は示せませんよね。
この「相関研究では因果関係を示すことができない」という事実をぜひ知っておいてください。
なぜなら(この例なら分かりやすいのですが)実際の研究結果を見るときには間違えてしまう人が多いからです。
実際に今回この記事で紹介した研究に立ち戻って考えてみましょう。
瞑想と脳年齢を検討したこの研究は相関研究か因果研究どちらか分かりますか?
答えは相関研究です。
「瞑想をしているかどうか」と「脳年齢」の相関を見ているからです。
なので、この研究では因果関係は分からないのです。
言い換えれば、「瞑想をすれば(原因)脳年齢が若くなる(結果)」かどうかは分からない。
ここを勘違いしてしまう人が少なくないので注意してください。
瞑想をすれば脳年齢が若くなる可能性ももちろんありますが、もしかしたら「単に脳年齢が若い遺伝子を持っている人ほど瞑想が好きになりやすい」なんていう可能性も否定できないのです。
あなたがこれから研究論文を紹介した記事などを読むときには、この点に注意して読んでみてください。
研究考察
それでは、瞑想をすれば(原因)脳が若くなる(結果)は成り立たないのでしょうか。
脳の研究をしている筆者は、実際に瞑想は脳年齢を若く保つだろうと考えています。
それを支持する研究を簡単に紹介しましょう。
まず第一に、瞑想は(因果的に)認知機能を高めることが度々報告されています。
これらの研究では、基本的に参加者を2グループに分けて、1つ目のグループには瞑想をしてもらい、もう一つのグループにはそれ以外のこと(読書やリラクゼーションなど)をしてもらいます。
そのグループ間で効果を比較し、瞑想の方が認知機能が高まるということが示されているのです[4]。
このように、初心者に瞑想をさせてみて、その結果どうなったかを検討する研究では「因果関係」に迫ることができます。
第二に、瞑想をしている最中には脳年齢に深く関わる多くの領域が活動します[5]。
特に、ACCやDLPFCと呼ばれる脳の前頭葉領域の活動性が高まることが繰り返し確認されています。
これらの研究を踏まえると、瞑想によって脳構造が変わり、脳が若く保たれるという因果関係も成り立つ可能性が高いと言ってしまっても問題ないのではないと筆者は考えています。
まとめ
冒頭で、偉大な成功や研究成果は若くして為されることが多いと書きました。
しかし、高齢になって大成功を収める人も実は少なくありません。
例えばカーネルサンダースは、65歳でケンタッキーを創立しています。
TV番組「ダーウィンが来た」のダーウィンも、有名な進化論を述べた「種の起源」を発表したのは50歳の時です。
彼らは歳をとっても柔軟な頭を保ち続け偉大な成果を残し続けました。
私たちも、運動や睡眠、食生活に加え瞑想という武器があります。
これを使っていつまでも若く柔軟な頭を持っていたいものですね。
※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。
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参考文献
1. Chen, P.Y., Chen, C. Le, Hsu, Y.C., and Tseng, W.Y.I. (2020). Fluid intelligence is associated with cortical volume and white matter tract integrity within multiple-demand system across adult lifespan. Neuroimage 212.
2. Brockmole, J.R., and Logie, R.H. (2013). Age-related change in visual working memory: A study of 55,753 participants aged 8-75. Front. Psychol. 4, 1–5.
3. Luders, E., Cherbuin, N., and Gaser, C. (2016). Estimating brain age using high-resolution pattern recognition: Younger brains in long-term meditation practitioners. Neuroimage 134, 508–513.
4. Eberth, J., and Sedlmeier, P. (2012). The Effects of Mindfulness Meditation: A Meta-Analysis. Mindfulness (N. Y). 3, 174–189.
5. Luders, E., Cherbuin, N., and Gaser, C. (2016). Estimating brain age using high-resolution pattern recognition: Younger brains in long-term meditation practitioners. Neuroimage 134, 508–513.