恋愛しているときは幸せだけど辛い?


2020年に報告されたある研究によると、恋人の香りのもとで寝ると睡眠の質が上がるのだそうです[1]。
この効果は他の人の香りでは得られなかったらしく、恋愛の不思議さを物語っているように思います。

恋愛とは進化の過程でずっとおこなわれてきた、いわば生物の本能のようなものです。
私たちがする勉強や仕事のような、理性的な行動とは対極にある行動ですよね。

それゆえに、とても幸せであったり、一方では自分を理性的にコントロールできないような感覚を持つこともあるでしょう。
そんなとき、脳の中ではどんなことが起きているのでしょうか。
それが分かれば、あなたが恋愛でどうしようもなく辛くなってしまったときにも自分を制御できるようになるかもしれません。

意外かもしれませんが、研究者の中には恋愛しているときの脳活動を研究している人がいます。
研究者の好奇心とは驚くほど強いものですね。
今日は、彼らが明らかにした「恋愛しているときの脳活動」について、研究を紹介していきます。

恋愛しているときの脳活動


2004年、Journal of Neurophysiology誌という伝統ある神経科学の雑誌にその研究は掲載されました[2]。
この研究の対象は、恋人がいる17名の男女で、彼らは1ヶ月から17ヶ月のあいだ交際を続けています。

研究者は、恋愛している最中の脳活動を知るために、以下のようなシンプルな実験をおこないました。

実験参加者がfMRIという脳スキャナーに入っているあいだ、彼らに

・恋人の写真
・親しい友達の写真

を見せるというものです。

恋人の写真を見ている最中の脳活動を調べることで、恋愛の脳活動を明らかにしようとしたんですね。
確かに、恋愛をしているときには恋人の写真を見るだけでも心が躍るような感覚があると思いますが、まさにその脳活動を研究したのです。

早速結果を紹介していきます。
いくつか結果はあるのですが、ここでは以下の二つの結果に着目します。

①恋人を見ているときには報酬系が活動
②交際期間が短いほどPCCが活動

この二つです。
とはいえ、報酬系やPCCといわれてもよくわからないと思うので、一つずつ解説していきましょう。

①恋人を見ているときには報酬系が活動

報酬系とは、簡単にいえば「嬉しい」ときや「やる気がある」ときに活動する脳領域のことです。
覚えなくて大丈夫ですが、具体的には尾状核やVTA(Ventral tegmental area)といった領域を指します。
例えば、食事にありつけたときやお金をもらうときには、これらの報酬系が活動します。
文字通り「報酬」を得たときに活動するんですね。

今回の研究でも、恋人の写真を見ているときにはこれらの領域、尾状核とVTAが活動しました。
恋人を見るというのは、私たちにとって報酬のようなものなんですね。
実際、好きな人の写真をつい見続けてしまうような経験がある人は少なくないでしょう。

また、VTAは報酬系であると同時に、盲目を生む部位としても知られています。
例えばギャンブルに没頭しているとき、つい他のものごとを忘れて次々にお金を投入してしまうような経験がありませんか?
そんなとき、報酬が欲しい!という信号をVTAが出して、他のものごとから意識を逸らしてしまうのだと考えられます。

恋愛でもこれと同じことが起きていると研究は示しています。
恋人の写真を見ているときにはVTAが活動していました。
これによって、他のものごとや後先のことを考えずに、恋人と連絡をとったりデートをしたりするようになるんですね。
恋は盲目とはよく言ったものですが、脳科学的にもまさしく、といったところでしょうか。

②交際期間が短いほどPCCが活動

さて、一言に恋愛や交際といっても、付き合いたての恋愛と長く付き合っている恋愛とではだいぶ感覚が違いますよね。
この研究ではこの点も検討しています。

結論から言うと、交際期間が短い付き合いたての恋愛であるほど、PCCという脳領域の活動が高いと言う傾向が明らかになりました。
このPCCという領域について、もう少し説明していきます。

PCCという脳領域


PCCとは、Posterior Cingulate Cortex、日本語では後帯状皮質です。
正式名称は覚えなくて良いのですが、このPCC、実は現代では少し大事な脳領域かもしれません。

というのも、PCCはインスタグラムなどのソーシャルネットワーキングサービスで、自分の投稿にいいねがついたときに活動する脳領域なんですね[3]。
実に現代的な脳領域ではないでしょうか。

これは何を意味するかと言うと、PCCは自分自身に注意が向いているときに活動する脳領域だと言うことです[4]。
ちょっとわかりづらいと思うので具体例をあげると、自分の過去を振り返ったり、自分がどう見られているか考えたりしているときに活動するとされています。

恋人の写真を見ているときに、このPCCが活動したのはどういう意味でしょうか。
また、交際期間が短いほどこの活動が大きいとは何を意味するのでしょうか。

それは、恋愛初期においては相手が好きという気持ちと同時に、自分はどう見られているだろうかという気持ちが強く働くということなのかもしれません。

自分に注意が向いているから、PCCが活動する。
言われてみれば、付き合いたての頃というのは付き合えて嬉しいと言う気持ちと同時に、嫌われないだろうか?という不安な気持ちも同時に生まれるように思います。
その不安が、恋愛感情をさらに高めることもあるでしょう。

これが恋愛のメカニズムなのかもしれません。
しかし、このPCCが活動しているとき、私たちはマインドワンダリングの状態にあることが知られています[5]。
マインドワンダリングとは心がさまよった状態、つまり心ここにあらずで目の前の仕事に集中できないなどの状況を生み出してしまうことを指します。
しかも、この状態では、私たちの幸福度は下がってしまうのです[6]。

なので、恋愛をする幸せというのは、同時にマインドワンダリングの不幸と背中合わせになっているともいえます。
なんとも厄介ですよね。

PCCをコントロールする方法


なんとかして、このPCCをコントロールすることはできないのでしょうか。
それができれば、恋愛中でもマインドワンダリングせずメリハリのある生活を送れたり、自分にばかり注意が向く状態ではなく相手の幸せを中心に考えることができたりするかもしれません。

その方法が実はあるということが、近年の研究で明らかになってきました。
それは、心の中で「全ての存在が幸せでありますように」と唱え続けることです。
とても研究が明らかにしたとは思えないような方法ですが、実はこの方法、慈悲の瞑想といって長い歴史ある方法でもあるんです。

よくよく考えてみれば、恋愛初期に活動が高まるPCCは自分に注意が向くときに活動する脳領域でした。
一方で慈悲の瞑想で「全ての存在が幸せでありますように」と唱えるときのことを想像してみると、そこに「自分」は介入しません。
そんなことを唱えたところで、自分が褒められたり、いいねをもらったりすることはできません。

それでも他の存在の幸せを願うという行為は、まさに自分への注意を司るPCCの活動を低下させる行為だといえるでしょう。
実際、慈悲の瞑想を行っている際には、明確にPCCの活動が低下していることが報告されているのです[7]。

なので、慈悲の瞑想を習慣に取り入れることで、あなたはPCCの活動をコントロールできるようになり、幸せな恋愛をすることができるようになるかもしれません。

慈悲の瞑想で脳がどのように変化するかは、こちらの記事に書かれているので是非読んでみてください。

まとめ


恋愛しているときには報酬系とPCCという脳領域が活動することを示しました。
特にPCCの活動は、自分に注意が向いている状態を反映し、ともすれば不幸な状態にも繋がります。
それをうまくコントロールするためには、慈悲の瞑想が効果的ということでした。

ちなみに、PCCの活動自体は、他の瞑想でも低下することが知られています。
瞑想の種類による効果の違いは明らかではありませんが、もし慈悲の瞑想がいまいち信じられない、抵抗があるという方は、それ以外のスタンダードな瞑想から取り入れてみるのもいいでしょう。
そのために、Relookの音声ガイドアプリはきっと役に立つはずです。

Relookアプリについてはこちらを参照してみてください。

※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。


関連記事
論文レポート:ひたすら感謝する慈悲の瞑想は脳をどのように変えるか


引用文献

[1] Hofer, M.K., and Chen, F.S. (2020). The Scent of a Good Night’s Sleep: Olfactory Cues of a Romantic Partner Improve Sleep Efficiency. Psychol. Sci. 31, 449–459.

[2] Aron, A., Fisher, H., Mashek, D.J., Strong, G., Li, H., and Brown, L.L. (2005). Reward, motivation, and emotion systems associated with early-stage intense romantic love. J. Neurophysiol. 94, 327–337.

[3] Sherman, L.E., Payton, A.A., Hernandez, L.M., Greenfield, P.M., and Dapretto, M. (2016). The Power of the Like in Adolescence: Effects of Peer Influence on Neural and Behavioral Responses to Social Media. Psychol. Sci. 27, 1027–1035.

[4] Leech, R., and Sharp, D.J. (2014). The role of the posterior cingulate cortex in cognition and disease. Brain 137, 12–32.

[5] Mason, M.F., Norton, M.I., Horn, J.D. Van, Wegner, D.M., Grafton, S.T., Macrae, C.N., Mason, M.F., Norton, M.I., Horn, J.D. Van, Wegner, D.M., et al. (2007). Wandering minds: The Default Network and Stimulus Independent Thought. Science. 315, 393–395.

[6] Killingsworth, M.A., and Gilbert, D.T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science. 330, 932.

[7] Garrison, K.A., Scheinost, D., Constable, R.T., and Brewer, J.A. (2014). BOLD signal and functional connectivity associated with loving kindness meditation. Brain Behav. 4, 337–347.