瞑想は脳波を変化させ集中力を高める

普段の生活で、読書やお仕事に集中したいのについスマホを触ってしまうことはありませんか?

SNSを開けば好きなアイドルのニュースが更新されているかもしれない、さっきの自分の投稿にいいねが付いているかもしれない・・・

そんなことが頭をよぎってしまい、つい本から目を離してスマホに手を伸ばしてしまう。

その自分に気づいていながら、制御できない。


正直、5000文字ほどもあるこのブログ記事を読み切るのでさえ大変に感じるかもしれませんね。

集中力を高めて無心で読書や仕事に集中できるようになる方法はないでしょうか。

実は、瞑想をすると集中力を高めることができる、ということが近年の研究でわかってきています。

今日は、脳波を用いた研究を紹介しながら、瞑想で集中力が高まるメカニズムについてお話ししていきたいと思います。


瞑想は前頭葉のシータ波を増加させる


瞑想をすると脳波はどう変わるのでしょうか。

結論からいうと、瞑想によって前頭葉でシータ波が強くなることが報告されています[1, 2]。

なんていきなり言われても何が嬉しいのかよくわからないと思うのですが、ひとまずそのことを示す研究を簡単に紹介させてください。


2001年にNeuroscience Letters誌に報告され、現在では800回以上も引用されている有名な論文では、瞑想の熟達者16名と瞑想未経験者11名を実験に呼びました[1]。

内容はいたってシンプルで、ただひたすら瞑想している最中に脳波を計測するというもの。


結果はどうだったかというと、瞑想の熟達者では安静時の2倍以上もの強さのシータ波が前頭葉で観測されました。

このシータ波は瞑想未経験者ではあまりみられませんでした。


このような研究というのは、一度報告されただけでは信じてはいけないのですが、

同様の結果が2018年のより大規模な研究でも確かめられており、瞑想で前頭葉のシータ波が強くなるのは確かだといえそうです[2]。


とはいえ、それの何がすごいの?

と思うかもしれません。

それにお答えして、次の節では前頭葉のシータ波が強いとどんなことが起きているのか、考えていきましょう。


前頭葉のシータ波の役割


前頭葉のシータ波は、1990年ごろからさまざまな研究がおこなわれていて、フロンタル・ミッドライン・シータ(Frontal-midline theta, Fmθ=前頭葉のシータ波という意味)などと呼ばれることもあるくらいメジャーな脳波です。


その歴史の中で、前頭葉のシータ波は集中力と深く関係するということがわかってきました。

私たちが深く集中しているときには前頭葉でシータ波が強く出ている、ということですね。


例えば、2019年にNature Communications誌という超一流の雑誌に掲載された論文では、ワーキングメモリ課題をおこなっている最中には前頭葉のシータ波が強く出ており、脳のネットワークを統合しているということが報告されています[3]。

類似の報告はきわめて多く、記憶力が高い人は前頭葉のシータ波が強いこと[4]や、フロー状態(極度の集中状態)でテトリスをおこなっているときには前頭葉のシータ波が強いこと[5]などが何度も報告されています。


私の専門に近いこともあって少し複雑な話になってしまいましたが、とにかく、前頭葉のシータ波が集中力と強く関係していることは間違いありません。

※今回は集中力とひとくくりにしていますが、より専門的には「実行機能」という認知機能と深く関連すると考えられます。


瞑想中に前頭葉のシータ波が増加する意味とは

さて、話を瞑想に戻しましょう。

瞑想をすると前頭葉でシータ波が強くなるのでした。

これは驚くべきことです。

なぜなら、瞑想中は一見ただ目をつぶっているようにみえるのに、実は前頭葉がフル回転して集中モードに入っていることを意味するからです。

瞑想中は実は脳がフル回転して、集中力が鍛えられているんですね。


もっと驚きなのが、瞑想によって自分の意思で集中モードに入ることができるようになるという事実です。

瞑想では、テトリスのように「集中しやすい対象」があるわけではありません。


ひたすら目をつぶっているだけです。

そのような「気が散りやすい」状況でさえ、訓練すると集中モードに入れるようになるのです。


読書中に、ついスマホに手を伸ばしてしまいそうになる。

そんな瞬間でも、瞑想を習慣にしていればスッと集中モードに入ることができるようになる。


仕事がはかどらず気づくと上の空になっている。

そんな人でも、瞑想をすればスッと深い集中に入っていけるようになる。


瞑想には実際にそんな効果がある[6]のですが、このことが脳波研究によっても裏付けられたんですね。



瞑想中にアルファ波が増加する


瞑想によって変化する脳波は、じつは他にもあります。

それがアルファ波です。

まずは、瞑想によってアルファ波が増加することを示した論文をいくつか紹介させてください。


2018年にBiological Psychologyという有力誌に報告された論文では、43名の瞑想熟達者と24名の瞑想初心者の脳波を比較しました[2]。

結果、瞑想熟達者は瞑想をしているときに明確に後頭葉のアルファ波が強く現れることがわかりました。


他にも、2004年に22名の健常者を対象にした研究で、瞑想に類似した「腹式呼吸」をしているときには、そうでないときに比べて明らかにアルファ波が増加していることが示されています[7]。


先ほどは前頭葉のシータ波が強くなる、という話をしましたが、瞑想中にアルファ波が強くなるのもまた確実なものといえそうです。

そうなれば気になるのが、アルファ波が強いとどんな嬉しいことがあるのかでしょう。


アルファ波の役割

ここまでかなり専門的な話が続いてしまっているので、もしかしたらあなたも集中力が切れて、周りの音が気になってきたかもしれません。

部屋の散らかった部分や、電車の広告が気になっているかもしれません。


そんなとき、あなたの脳ではアルファ波が減少している可能性があります。


アルファ波の役割は必要のない情報をかきけすということにあると考えられているのです[8]。

そのため、アルファ波が減少しすぎると集中力が途切れやすくなる。

実際、世の中にはアルファ波がうまく出ない人たちがいて、そういう人たちは認知機能が低いということが知られています[9]。


瞑想中にアルファ波が増加する意味とは

瞑想の話に戻りますが、瞑想をしているとアルファ波が強くなるということは、わかりやすく言えば不要な感覚情報をガンガン遮断している状態を作り出しているということになります。


テレビの映像で、何十年も瞑想をしている人が瞑想中にくすぐられてもどんなことが起きても全く反応しない様子をみたことがありませんか?

あれは瞑想によって極度にアルファ波が増加した状態によって可能になっているのかもしれません。


瞑想をすると、そういう能力が鍛えられる可能性があるのです。

もっと平たく言ってしまえば、集中力が爆発的に上がるという効果が得られると考えられます。


ちょっとうるさいカフェで読書をしているとき、ふと後ろで知り合いの噂話が始まったとしましょう。

つい気になって聞き耳を立ててしまって、全く読書に集中できなくなるのがふつうかもしれません。

でも、瞑想をすることでアルファ波をコントロールできるようになり、そんな状況でもスッと集中状態に入ることができるようになることが期待できます。


ここまでをまとめると、

瞑想をするとアルファ波が増加する

それによって、不要な感覚情報を意図的に遮断する能力が身につく

可能性があるということになります。


まとめ

ちょっと瞑想の良い面を強調しすぎてしまったので、もしかしたら逆に半信半疑という人がいるかもしれません。

その感覚はとても大事で、研究で示されているから絶対に正しい、なんてことはありません。


ですが、こと瞑想の研究に関しては非常に多くの証拠が積み重ねられてきています。

例えば、あらゆる研究の中でももっとも信頼性が高い手法と言われるメタ分析でも、瞑想をすることで人にとって重要な認知機能である実行機能が高まることなどが示されています[10]。


その効果を、ぜひあなた自身の脳で確かめてみてはいかがでしょうか。


※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。

引用文献

[1]Aftanas LI, Golocheikine SA. Human anterior and frontal midline theta and lower alpha reflect emotionally positive state and internalized attention: high-resolution EEG investigation of meditation. Neurosci Lett. 2001 Sep 7;310(1):57-60. doi: 10.1016/s0304-3940(01)02094-8. PMID: 11524157.


[2]Kakumanu RJ, Nair AK, Venugopal R, Sasidharan A, Ghosh PK, John JP, Mehrotra S, Panth R, Kutty BM. Dissociating meditation proficiency and experience dependent EEG changes during traditional Vipassana meditation practice. Biol Psychol. 2018 May;135:65-75. doi: 10.1016/j.biopsycho.2018.03.004. Epub 2018 Mar 8. PMID: 29526764.


[3]Berger B, Griesmayr B, Minarik T, Biel AL, Pinal D, Sterr A, Sauseng P. Dynamic regulation of interregional cortical communication by slow brain oscillations during working memory. Nat Commun. 2019 Sep 18;10(1):4242. doi: 10.1038/s41467-019-12057-0. PMID: 31534123; PMCID: PMC6751161.


[4]Pavlov YG, Kotchoubey B. The electrophysiological underpinnings of variation in verbal working memory capacity. Sci Rep. 2020 Sep 30;10(1):16090. doi: 10.1038/s41598-020-72940-5. PMID: 32999329; PMCID: PMC7527344.


[5]Ewing KC, Fairclough SH, Gilleade K. Evaluation of an Adaptive Game that Uses EEG Measures Validated during the Design Process as Inputs to a Biocybernetic Loop. Front Hum Neurosci. 2016 May 18;10:223. doi: 10.3389/fnhum.2016.00223. PMID: 27242486; PMCID: PMC4870503.


[6]Xu M, Purdon C, Seli P, Smilek D. Mindfulness and mind wandering: The protective effects of brief meditation in anxious individuals. Conscious Cogn. 2017 May;51:157-165. doi: 10.1016/j.concog.2017.03.009. Epub 2017 Apr 2. PMID: 28376373.


[7]Fumoto M, Sato-Suzuki I, Seki Y, Mohri Y, Arita H. Appearance of high-frequency alpha band with disappearance of low-frequency alpha band in EEG is produced during voluntary abdominal breathing in an eyes-closed condition. Neurosci Res. 2004 Nov;50(3):307-17. doi: 10.1016/j.neures.2004.08.005. PMID: 15488294.


[8]Jokisch D, Jensen O. Modulation of gamma and alpha activity during a working memory task engaging the dorsal or ventral stream. J Neurosci. 2007 Mar 21;27(12):3244-51. doi: 10.1523/JNEUROSCI.5399-06.2007. PMID: 17376984; PMCID: PMC6672464.


[9]Bazanova OM, Vernon D. Interpreting EEG alpha activity. Neurosci Biobehav Rev. 2014 Jul;44:94-110. doi: 10.1016/j.neubiorev.2013.05.007. Epub 2013 May 20. PMID: 23701947.


[10]Takacs ZK, Kassai R. The efficacy of different interventions to foster children’s executive function skills: A series of meta-analyses. Psychol Bull. 2019 Jul;145(7):653-697. doi: 10.1037/bul0000195. Epub 2019 Apr 29. PMID: 31033315.