「自分が、自分が」を生み出すPCCという脳領域


恋と愛の違いはなんでしょうか。

いきなり答えのない問いですが、これが今回のテーマである慈悲の瞑想と深い関わりがあるので、少し考えてみましょう。

 

瞑想と脳の研究で有名なジャドソン・ブルワー氏は、著書「あなたの脳は変えられる」の中で「自分のことで頭いっぱいなのが恋」と書いています。

なるほど、確かに恋焦がれている時は会えなくて「自分が」辛い、と言った気分になります。

自分が主人公なのが恋なんですね。

 

そのような恋をしているときには、脳の中でもPCCと呼ばれる領域が活動していることが報告されています[1]

PCCは自分自身に注意が向いているときに活動している脳領域です。

ということでやはり、脳科学的にも恋は「自分のことで頭がいっぱい」な状態であることが示唆されているのです。

 

一方で愛を考えてみると、寄付をするときや両親のことを考えるときが「愛」と考えてみましょう。

そのような時、そこに「自分」はあまり介入しないように思います。

寄付をしなくても、親孝行をしなくても、「自分が」辛いなんてことはあまりないですよね。

だけど私たちはそういう行為をします。

このように「自分」があまり介入せず、相手のためを思って行うのが愛なのかもしれません。

この恋愛をしている時の脳の活動についてはこちらの記事で解説しているので、ぜひ目を通してみてください。

 

さて、「自分」が主人公になっている恋のような状態では、PCCが活動するという話をしました。

これの何がいけないのでしょうか。

実はこの領域が活動していると、マインドフルネスとは真逆の状態にあるのです。

 

マインドフルネスとは「今ここ」に意識が向いていて幸福度の高い状態であるとされます。

このマインドフルネスな状態の時には、PCCの活動が低い、逆にPCCの活動が高いとマインドフルネスではない、という研究が報告されています[2]

 

なので、なんとかして自分にばかり意識が向いている状態を脱して、マインドフルな状態に近づくことが幸せへの近道と考えられます。

  

慈悲の瞑想と脳科学


でもどうすればいいのでしょうか。

それを実現するのが慈悲の瞑想です。

 

慈悲の瞑想とはどんな瞑想かというと、ただひたすらに心の中で感謝を述べ続ける瞑想です。

まずは自分自身に、そして親しい人たちに、さらに嫌いな人たちに、最後に生きとし生けるもの全てに対する感謝を心の中で唱えます。

 

誤解を恐れずに言えば、極めて宗教っぽく、効果のなさそうな瞑想ですよね。

でも、実はこの慈悲の瞑想が本当に効果的なのだということが報告されてきているのです[3,4]

慈悲の瞑想をやればポジティブ感情が増加したり、実際に脳構造が変化したりすることが報告されています。

 

なぜ慈悲の瞑想には効果があるのか、ということを少し考えてみましょう。

最初に、恋は「自分」が中心になっていてマインドフルではない、という話をしました。

 

実は、慈悲の瞑想では「自分が、自分が」という状態とは真逆にあるのです。

慈悲の瞑想では、頭の中で感謝を述べるだけです。 

そんなことをしても見返りがもらえるはずがありません。

まして、やらなかったからと言って「自分が」辛くなる訳でもありません。

 

慈悲の瞑想は、「自分」が全く関与しない感謝を繰り返すというルーティンなのです。

言い換えれば、まさしく自分が介入しない愛を育てるルーティンとも言えるかもしれません。

 

こういう理由で、慈悲の瞑想をすると「自分が」という思考回路から離れて感謝の気持ちを育てることができる、と考えられるのです。

とはいえ、そんなことは理想論だと思われる方もいらっしゃるでしょう。

 

頭の中で起きていることはなんとでも言えますからね。

そこで、実際に慈悲の瞑想をしている最中の脳の動きを調べてみた研究を今日は紹介していきましょう。

 

研究内容


2014
年に報告されたこの研究[5]では、20名の慈悲の瞑想熟達者と、26名の初心者を集めてきました。

実験内容はとてもシンプルで、単に彼らに慈悲の瞑想をしてもらうというものでした。

その間の脳活動を、fMRIという脳スキャナーで計測します。

 

実験方法に特筆すべきことはないので、早速結果を紹介しましょう。

結果、瞑想の熟達者では慈悲の瞑想中にPCCの活動が低下している、ということが明らかになりました。

 

PCCが何の領域だったか覚えていますか?

PCCは、自分に注意が向いている時に活動する脳領域でしたね。

 

そのPCCの活動性が、慈悲の瞑想中に下がるのです。

これは何を意味しているのか。

 

それは、慈悲の瞑想中に本当に「自分が」という気持ちが消えていっているということです。

 

PCCの活動が低下し自分中心の考え方が小さくなっていることを、この研究は示唆しています。

 

これはとても驚くべきことではないでしょうか。

 

単に心の中で感謝を唱えつづけるだけで、実際に「自分が」という気持ちが減っていく。

しかも高性能な脳スキャナーが開発されたおかげで脳の中でそれが実際に証明できるようになった。

 

余談ですが、これは大昔から続く瞑想の伝統が本当に脳を変える、ということを21世紀の科学がようやく示したのだと筆者は思います。

そう思うとロマンを感じませんか?

 

何はともあれ、慈悲の瞑想によってPCCの活動が低下し、自分中心の思考回路から逃れることができる可能性が示されました。

 

慈悲の瞑想を実践する


そうすると、慈悲の瞑想を実際に試してみようと思う方もいるでしょう。

でもいざ始めようとすると、本当にうまくできているのか不安になることはありませんか?

実際、瞑想と言っても呼吸の仕方や姿勢など、意外と気にすることが多いものです。

最初はいろいろ不安になることもあるでしょう。

 

もしそうなら、Relookアプリを手に取ってみてください。

例えば「マインドフルネス瞑想応用」の中には、慈悲のマインドフルネスという項目があります。

その音声を聞けば、呼吸や姿勢など基本的な事項を抑えつつ、慈悲の瞑想を実践することができます。

 
もちろん、決して慈悲の瞑想は難しいものではないので、自分は大丈夫という方は自分で始めてしまって大丈夫ですが、
気になる方は是非一度下記のリンクから試してみてください。 

Relookアプリについてはこちらを参照してみてください。

 

まとめ


おさらいしていきましょう。

まず、恋は自分が中心になっているが、愛は自分が介在しない、ということを話しました。

そして、恋をしている時に見られるような「自分が、自分が」という気持ちは脳のPCCという場所が司っていて、それがマインドフルネスを妨げている可能性についても話しました。

そこで、慈悲の瞑想をすることでPCCの活動が低下し、自分中心の思考をやわらげられる可能性を、実際の研究を示しながら紹介しました。

 

ということで、慈悲の瞑想は一見特に胡散臭そうな方法ですが、実は研究で効果が認められているものなのですね。

効果を感じるのには少し時間がかかるかもしれませんが、日々の習慣にすることできっと少しずつ変化が実感できるはずです。

是非始めてみてはいかがでしょうか。


※本記事の内容は、執筆当時の学術論文などの情報から暫定的に解釈したものであり、特定の事実や効果を保証するものではありません。

  

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論文レポート:恋愛をしているときの脳活動が明らかに


参考文献

1. Aron, A., Fisher, H., Mashek, D.J., Strong, G., Li, H., and Brown, L.L. (2005). Reward, motivation, and emotion systems associated with early-stage intense romantic love. J. Neurophysiol. 94, 327–337.

2. Mason, M.F., Norton, M.I., Horn, J.D. Van, Wegner, D.M., Grafton, S.T., Macrae, C.N., Mason, M.F., Norton, M.I., Horn, J.D. Van, Wegner, D.M., et al. (2007). Wandering minds: The Default Network and Stimulus Independent Thought. Science. 315, 393–395.

3. Fredrickson, B.L., Cohn, M.A., Coffey, K.A., Pek, J., and Finkel, S.M. (2008). Open Hearts Build Lives: Positive Emotions, Induced Through Loving-Kindness Meditation, Build Consequential Personal Resources. J. Pers. Soc. Psychol. 95, 1045–1062.

4. Fox, K.C.R., Dixon, M.L., Nijeboer, S., Girn, M., Floman, J.L., Lifshitz, M., Ellamil, M., Sedlmeier, P., and Christoff, K. (2016). Functional neuroanatomy of meditation: A review and meta-analysis of 78 functional neuroimaging investigations. Neurosci. Biobehav. Rev. 65, 208–228.

5. Garrison, K.A., Scheinost, D., Constable, R.T., and Brewer, J.A. (2014). BOLD signal and functional connectivity associated with loving kindness meditation. Brain Behav. 4, 337–347.